退職後の同業他社への転職禁止 何年まで有効?

仕事

競業他社への転職が認められる条件

同業の会社への転職って、退職した後何年までなら禁止されるのは問題ないですか?

退職した時のあなたの役職にもよりますが、一般的には1~2年までがほとんどですね。

3~5年くらいに伸びると禁止が無効となる可能性が高くなります。

競業禁止規定とは?

出典元:O-DAN

 競業禁止規定というのがあります。

 これは従業員が退職した後、決められた期間は同業の企業へ転職することを禁止するものです。
 例えば、有名なところでいえばファミリーマートからローソン、エディオンからヤマダ電機、はるやまから洋服の青山への転職など同業他社への転職がそうですね。
 この規定は、企業や従業員にとっては重要な意味があります。


 企業だと、これまで勤めていた従業員が退職して同業他社に就職すると、いろいろな営業上の秘密とかノウハウなどが漏洩する恐れがあるので避けたいと考えます。


 一方で従業員だと、これまで勤めていた会社で身につけたスキルを活かして仕事を続けたいと考えるので、再就職先として同業他社へ就職したいと考えます。

 そのため、同業他社への会社に就職することが禁止されてしまうと、職業選択の自由に反するのではないかということで会社と元従業員がトラブルになったりします。(憲法22条に規定する職業選択の自由について

従業員にとっては、似たような業種に転職した方がこれまでのスキルを活かせるのでコスパいいですよね。

競業禁止規定の期間:1~2年が妥当

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 競業禁止規定で定めることができる競業禁止の期間は、一般的に1~2年程度です。
 競業禁止規定についての誓約書をかわす場合は、その誓約を行う理由と期間について、たとえば

第〇条「従業員は、在職中または退職した後○年間は、当社の競合他社に就業し、または自ら会社の業務と競争関係となる競業行為をしてはならない。」

 と就業規則などに明確に定められてあるか確認することが大切です。
 そうでないと、企業と言った言わないのトラブルになる場合があります。

 ちなみに就業規則は会社は従業員たちに周知する義務があるので、会社に確認したいといえばいつでも見ることができます。

退職後の競業禁止規定の有効性

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 過去の裁判をみてみると、競業禁止が認められるかどうかは、だいたい大きく次の4つを基準に判断しています。

【競業禁止の4つのポイント】

ポイント①退職した時の従業員の職務や地位
ポイント②競業が禁止される業務、期間、地域の範囲
ポイント③退職した際の従業員への不利益
ポイント④競業禁止とする対価として十分な退職金、給料等の支払いの有無
(参考:フォセコ・ジャパン事件奈良地裁昭45.10.23判決

特にポイント②の競業が禁止される期間の長さが、有効か無効かの判断を大きくわける基準になります。

 これらを前提としたうえで、退職後の競業禁止規定が有効となる場合と無効となる場合について一緒に考えてみましょう。

有効な場合

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 さきほどお話ししたように、退職後の競業禁止規定が有効となるかについては、その禁止期間の長さがどれくらいかは大きな判断ポイントです。


 たとえばヤマダ電機事件では、禁止される業務の範囲を同業他社に限定し、競業が禁止される期間を1年間と狭く解釈した場合は、競業禁止の契約が有効とされる傾向にあります(参考:ヤマダ電機事件 東京地裁 平19.4.24判決

 つまり1年くらいであればエディオンとかに転職を禁止するのは妥当だということで判断したということです。


 また、禁止される業務の範囲や期間以外に地域の範囲についても、会社が事業展開している範囲に限定することが合理的であるとも考えられています。
 例えば、あなたが東京で食品の製造販売をする会社に勤めていたとします。

 そのあと、あなたに同業他社への転職先として禁止できる範囲は、東京で事業展開している範囲のみということになります。

 図で表すとこのような感じになります。

出典元:いらすとや

 つまりライバル会社がいない地域であれば、同じ業種であっても転職してもいいということですね。

無効な場合

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 さきほど説明した競業禁止の4つのポイントの判断基準にもとづいて、裁判所で合理性がなく、労働者の自由を不当に害するものであると判断された場合は、競業禁止規定が無効となる可能性が高くなります

【競業禁止の4つのポイント】再掲

ポイント①退職した時の従業員の職務や地位
ポイント②競業が禁止される業務、期間、地域の範囲
ポイント③退職した際の従業員への不利益
ポイント④競業禁止とする対価として十分な退職金、給料等の支払いの有無
(参考:フォセコ・ジャパン事件奈良地裁昭45.10.23判決


 たとえば、

・退職後5年間は同業他社への就職を禁止した規定が無効とされたケース(参考:消防試験協会事件 東京地裁 平成15.10.17

・退職後の禁止期間や地域を具体的に定めなかったため無効とされた例(参考:日本水理事件 大阪地裁 平成17.4.15)。

 また、
・大学卒業した後12年近くにわたって同種の業務に携わった従業員に対して、同業他社への転職を制限したことが、不利益が大きいとして競業禁止の規定が無効とされた例(参考:新日本化学事件 大阪地裁 平15.1.22判決

 などもあったりします。

競業禁止規定に違反するとどうなる?

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 あなたが会社が定めた競業禁止規定を違反した場合は、損害賠償金の支払いを求められることがあります。
 先ほど紹介したヤマダ電機事件の例では、退職した元従業員が、1年間競業他社に転職することを禁止した誓約書に違反したとして、労働者に約140万円の支払いを認めました。(参考:ヤマダ電機事件 東京地裁 平19.4.24判決

 3年とか5年とか転職禁止は問題ですけど、さすがに1年以内にライバル店に転職したのはまずかったのかもしれないですね。

まとめ

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 労働者には職業選択の自由が認められているので、いろんな裁判例をみてみても、基本的に退職後の競業禁止が有効とされる範囲は狭くなる傾向にありました。
 仮に裁判になったとしても、企業の機密情報を積極的に漏洩させたなどがなければ、損害賠償請求が認められる可能性は低いでしょう。


 もし、競業禁止についての誓約書を会社と結ぶことになったら、禁止期間が長すぎないか、範囲が広すぎないかなどをよくみて判断するといいですね。

 ちなみにアメリカでは、Appleで開発を担当していたウィリアムズ氏が2019年にAppleを退職した後、元Appleのエンジニアらと開発企業を立ち上げたことに対して、Appleはウィリアムズ氏が同社との競業禁止規定に違反するとして訴えた例があったりします。

 ただ個人が尊重されるアメリカでは競業禁止条項の行使がほとんど不可能なので、2023年4月29日、最終的にAppleはウィリアムズ氏に対する訴訟取り下げを行いました。(参考:Apple Drops Suit Against Ex-Chip Exec Williams Who Started Nuvia – Bloomberg

 日本にも既に個人の時代が来ていると言われる現代では、アメリカのように今後競業禁止規定を定めることはさらに難しくなっていくのかもしれないですね。

競業禁止についてよくある質問

私が入社したときに「競業禁止の誓約書に違反したら退職金は0だ」といわれました。

たしかに違反した人が悪いのかもしれませんが、退職金が1円も払われないのは重すぎると思います。

これは問題ないんですか?

あなたが意図的に営業秘密に関する情報をつかって信用を貶めるなどの不当な行為をしたとかでなければ、全額退職金を払わないというのは無効となる可能性が高いです。

少なくとも一部退職金の支払いを求めることは可能ですよ。

じゃあ全額払われなかったとかではなく、退職金が減額して払われた場合は問題ないのですか?

それぞれのケースによるんですが、ざっくりいうと競業禁止規定に違反した場合の退職金の減額は、半額までであれば認められることが多いですね。(参考:三晃社事件 最高裁二小 昭52.8.9判決

退職金は、基本的にあなたの勤続年数とか過去の功績の対価として支払うものなので、その評価が下がったから減額が認められたと解釈する感じです。

【参考文献・データ等】

厚生労働省「憲法22条に規定する職業選択の自由について

フォセコ・ジャパン事件奈良地裁昭45.10.23判決

ヤマダ電機事件 東京地裁 平19.4.24判決

消防試験協会事件 東京地裁 平成15.10.17

日本水理事件 大阪地裁 平成17.4.15

新日本化学事件 大阪地裁 平15.1.22判決

三晃社事件 最高裁二小 昭52.8.9判決

道幸哲也「競業避止義務制約の法理」知的財産法政策学研究 Vol.11(2006)

Apple Drops Suit Against Ex-Chip Exec Williams Who Started Nuvia – Bloomberg

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