最強の認知行動療法ACTのやり方②~脱フィージョン編~
ACTシリーズの続き(イントロ編)です。
今回はACTシリーズ第2弾ということで、「脱フィージョン編」に移っていきます。
脱フィージョンとは、
- ネガティブな感情と自分を切り離すテクニック
をいいます。
フィージョンときくとドラゴンボールをイメージした方もいたかもしれませんが、ACTでは
- 「思考と感情が1つに混ざり合うこと」
をフィージョンといいます。
例えば、
- 「私は失敗する」と思うと、それが実際に起きてしまうと考えて落ちこんでしまう。
- 「僕はみんなから嫌われている」と考えて、本当に嫌われていると信じ込む。
などがそうです。
仕事でやりたいことが見つからない、楽しめないのは、このようなネガティブな感情にとらわれているからです。
僕らは感情に振り回されなくなると、仕事や人間関係、ストレス対策もうまくいくようになります。
それができるのが「脱フィージョン」というテクニックです。
実際に思考や感情と自分を切りはなす「脱フィージョン」は、ACTでよく使われています。
ACTは瞑想と違って1分で効果を実感できる超強力なテクニックです。
もっと深めたい方は、ラスハリスの『幸福になりたいなら幸福になろうとはしてはいけない』がACTの本の中で多く読まれているのでお勧めです。
一度身につければ今後感情にふりまわされなくなるので、今回の記事とあわせて読むと効果的です。
ではここから最強の認知行動療法ACT第2弾「脱フィージョン」について解説していきます。
脱フィージョンをする理由
ACTでは、思考はあくまで僕らの頭の中に出てきたストーリーと呼んでいます。
感情は、
- 胸が痛む
- 胃がしめつけられる
- 心がざわざわする
など、体に起こる感覚をいいます。
自分の思考を事実として信じすぎてしまうと、柔軟性が失われてしまいます。
例をあげると、次のようなものがあります。
- 「大企業に勤めて出世するのが大事」だと思い込んで、それ以外の選択肢が見えなくなった。
- 「自分は仕事ができない無能なんだ」という思考を信じ、消極的になって行動できなくなった。
- 「お金を稼ぐにはたくさん働かないといけない」という思考を信じすぎて、たくさん働く以外にも稼げる道が失われた。
繰り返しますが、思考はあくまでストーリー、物語です。
ストーリーが事実だと信じて柔軟性を失うと可能性が失うので問題です。
そこで、思考と感情、イメージと出来事を分けることが必要になります。
心の中にあるストーリーよりも、現実に起きていることに目を向けたほうが、「じゃあこうしよう」と柔軟に考えて対応できます。
そもそも思考と感情はくっつきやすい
ハリーポッターを観て「自分も魔法が使えるんだ!」とは思う人はいない。
それはあくまでストーリーであって、その物語の中の出来事だと知っているからです。
ですが、思考になると僕らは簡単にくっついてしまいます。
例えば、目の前に梅干しがたくさんあるのをイメージして、それらを口の中に入れる自分を想像してみてください。
すると、唾液がでてきます。
実際に梅干しがあるわけではないのに、なぜか食べるのをイメージするだけで唾液がでる。
これが思考と感情がくっついている状態です。
僕らは注意しないと、イメージと現実の区別がつかなくなります。
なので、脱フィージョンのテクニックが必要になります。
ここから具体的に、効果が証明されている脱フィージョンのメソッドを10個紹介します。
自分が使いやすい方法を1つ見つけて、今日から使い続けてみるだけで大分メンタルが強くなります。
毎日5回から10回を目標に使ってみてください。
脱フィージョン10の科学的メソッド
脱フィージョンの具体的なメソッドは、次の10個です。
【脱フィージョン10の科学的メソッド】
- 方法①私は〇〇という考えをもっている
- 方法②音楽にのせる
- 方法③真剣に受け止めない
- 方法④心に感謝する
- 方法⑤アニメキャラに言わせる
- 方法⑥パソコンの画面に表示させる
- 方法⑦なぜ?を繰り返す
- 方法⑧箱に入れる
- 方法⑨ストーリーにタイトルをつける
- 方法⑩その思考は役に立つか考える
どれも簡単にできて即効性があるので、好きな方法を選んで実践してみるといいですね。
方法①私は〇〇という考えをもっている
脱フィージョンの1つ目の方法は、「私は〇〇という考えをもっている」です。
あなたのネガティブな思考を何か1つ挙げてみてください。
(例)自分の目標は達成できない。自分はなんてダメなやつなんだ。
思いついたら、そのフレーズを10秒間可能な限り真実であると信じ込みます。
次にそのフレーズを以下の○○に当てはめます。
「私は〇〇という考えをもっている」
(例)私は「自分はなんてダメなやつなんだ」という考えをもっている。
最初と比べて、一歩引いた感じで自分を見ることができたのではないでしょうか?
「単なる言葉の羅列として、自分はそう考えているだけなんだ」と気づけたはずです。
これが脱フィージョンです。
方法②音楽にのせる
脱フィージョンの2つ目の方法は、「音楽にのせる」です。
先ほどと同じように、何かネガティブな思考を1つ挙げてみてください。
(例)僕はなんて無能なんだ。僕はいつも失敗ばかり。
次に、思いついたフレーズを「ハッピーバースデー」の曲で歌ってみてください。
(例)僕は~な~ん~て~♪ 無能な~ん~だ~♪
今度は、ジングルベルのメロディーで歌います。
(例)僕は~♪いつも~♪失敗ば~かり~♪
この時、起こる変化に注目します。
音楽にのせて歌うと、歌う前より問題を深刻に考えなくなったことに気づいたと思います。
決してその思考を追い出そうとしたわけでもなく、事実かどうかを考えたわけでもありません。
単なる言葉が頭をよぎっただけです。
つまり脱フィージョンしたのです。
なんだか馬鹿馬鹿しいなと思ったかもしれませんが、あくまで脱フィージョンは思考と距離を置くためのテクニックです。
ちなみに音楽にのせるのは自分が好きな曲でも構いません。
思考を音楽にのせると、歌詞のようにただの言葉であると気づけます。
方法③真剣に受け止めない
脱フィージョンの3つ目の方法は、「真剣に受け止めない」です。
何かネガティブな思考を1つ挙げてみてください。
(例)自分は人生の負け組だ。私はつまらない人間だ。
このネガティブな思考を、10秒間できる限り真実だと信じてみます。
次に、以下の言葉を強くイメージしてください。
「私はポンデリングだ!」
自分がポンデリングだと思い込もうとしたときに、あなたにどんな影響を及ぼすか観察します。
1つ目に思い浮かべた言葉は、それを真剣に受け止めたかと思います。
ですが「私はポンデリングだ!」と思ったときは、「そんなわけないでしょ笑」と思ったはずです。
「わ、私はポンデリングだったなんて…。ミスタードーナツで売られちゃう。つ、つらいわ」と真剣に受けとめない。
最初に思い浮かべた思考も同じです。
真剣に受け止める必要はなく、自分の思考はただの言葉の羅列なんだと気づけます。
方法④心に感謝する
脱フィージョンの4つ目の方法は、「心に感謝する」です。
心に感謝するとは、
- ネガティブな思考がわいてきたら「ありがとう心」と感謝する
というものです。
「ありがとう」が言いにくければ「おつかれさま」でもOKです。
私たちの思考は、ふとした瞬間に頭をよぎったりします。
- 職場でキーボードを打っているときに「ずっと事務作業ばっかりで、なんてつまらない人生なんだ」と思う。
- 上司に𠮟られたときに「自分は何をやっても失敗ばかりだ」などと思う。
そんな思考がわいてきたら、
- 「本当?教えてくれてありがとう心」
- 「あ、また伝えてくれたんだね。ありがとう心」
と心に感謝します。
心に感謝をすると、自分の思考を他人事のように感じることができて、距離を置くことができます。
心配性の親にいろいろアドバイスとか確認されて「うん。わかったわかった。ありがとう。」という感じで、思考を外から見れます。
あなたが何か頭のなかで思考がよぎるたびに
- 「なるほどなるほど。教えてくれてありがとう心」
と心に感謝してみるといいですね。
方法⑤アニメキャラに言わせる
脱フィージョンの5つ目の方法は、「アニメキャラに言わせる」です。
アニメキャラに言わせるとは、
- 自分の考えを、アニメのキャラクターが言っているところを想像する
というものです。
まずは、「自分はダメな奴だ」と10秒間信じ込みます。
思考と感情がフィージョンして、きつくなった方もいると思います。
次に、なんでもいいので、アニメキャラにそのセリフを言わせます。
例えば、
ドラゴンボールの孫悟空が
- 「オラはなんてダメなやつなんだ!」
でもいいし、デデデ大王が
- 「ワシはなんてダメなやつなんだZOY!」
でもいいでしょう。
すると、これまでその思考が感情と結びついていたものが、ただ言葉を聞いているだけの感覚になります。
アニメキャラに言わせるテクニックも、自然と思考と距離が置くことができるのでお勧めです。
方法⑥パソコンの画面に表示させる
脱フィージョンの6つ目の方法は、「パソコンの画面に表示させる」です。
ネガティブな思考をパソコンの画面にイメージで表示させる方法です。
これは頭の中でイメージを浮かべるのが得意な人に向いています。
ステップは次の2つです。
- 1 ネガティブなフレーズが出てきたら、そのフレーズがパソコンの画面にシンプルなフォントで表示されているのを想像する。
- 2 テキストの色やフォントを変えたり、スペースを入れたり、画面の下に移動させたり、電子看板のように左から右へ色が変えたりと、自由に変えて遊んでみる。
この脱フィージョンをすると、パソコンの画面の文字列が自分とは何の関係もないように思えるはずです。
すると、ネガティブな思考にまきこまれるのを防げます。
方法⑦なぜ?を繰り返す
脱フィージョンの7つ目の方法は、「なぜ?を繰り返す」です。
ネガティブな感情や思考の原因を、ひたすら「なぜ?」で問い詰めていく方法です。
ロジックで物事を考えるのが好きなタイプに向いています。
ステップは次の2つです。
- 1 「自分はダメな人間だ」と考えたら「なぜ?」と自分に問いかけて答えを探す。
- 2 その答えが「仕事でミスをしたから」であれば、さらに「なぜ仕事でミスをするとダメなのか?」と問いかけ、「ミスをするとダメなのは…」と原因を詰めていきます。
これを繰り返すと、ネガティブな思考に根拠がないと気づけます。
方法⑧箱に入れる
脱フィージョンの8つ目の方法は、「箱に入れる」です。
頭でイメージするよりも、実際にある物をつかった方がやりやすいと思う人に向いています。
ステップは次の2つです。
- 1 実際にある箱(サイズは自由)を用意し、ネガティブな感情や思考が出てきたら、その箱に注ぎ込まれていく様子をイメージする。
- 2 すべて箱の中に入ったと思ったら、箱を閉める。
すると、ネガティブな思考や感情が自分と切り離されていく感覚が出てくるはずです。
方法⑨ストーリーにタイトルをつける
脱フィージョンの9つ目の方法は、「ストーリーにタイトルをつける」です。
ネガティブな思考や感情が出てきたら、それにタイトルをつけます。
例えば次のようにタイトルをつけていきます。
- 「自分はダメだ」という思考が出てきた→「のび太君の自分はダメだ物語」が出てきたな
- 「私にはできない」という思考が出てきた→「私には絶対無理です物語」がわいてきたぞ
- 「俺は特別なんだ」という思考が出てきた→「世界に一つだけの花物事」が始まったな
ネガティブな思考が出てきたときに、これが物語だと気づける人はあまりいません。
日記をつけている人は、10年前の自分の悩みを読んだときに「あ、あの時の悩みってネガティブな物語だったんだな」と気づいた経験のある人は多いと思います。
たとえ失敗したとしても、それは一時的な物語です。
タイトルをつけると、ふと頭の中にネガティブなイメージが出てきても「あ、物語がわいてきたな」と脱フィージョンすることができます。
方法⑩その思考は役に立つか考える
最後、脱フィージョンの10個目の方法は、「その思考は役に立つか考える」です。
これまで脱フィージョンの例を見て、出てきた思考が事実だったらどうするの?と思った方もいるかもしれません。
ですがACTでは、思考が事実かどうかではなく、役に立つかどうかで決めます。
例えば、「あなたはこの仕事には向いていない」といわれたら、その思考が役に立つかどうか考えます。
すると、自分を改善する方法がわからないので意味がないことに気づきます。
何か考えがふと出てきたら、「それって役に立つのかな?」と考えるのがACTです。
注意:フィージョンは敵ではない
実際に思考と感情を切りわける「脱フィージョン」のテクニックをやってみると、「思ったより簡単にできるんだな」と驚いた方も多いと思います。
そこで、いろいろ思考がわいてくる度に脱フィージョンしようと考えた人もいるかもしれませんが、注意したいのは
- 「フィージョンは敵ではない」
ということです。
好きな音楽を聴いて幸せな気持ちになったり、同僚と一緒にいるときに楽しくなったりするなどといったフィージョンは問題ありません。
むしろ、音楽を聴いたり同僚と楽しく時間を過ごしたりするなどの状況なら、フィージョンした方がいいのです。
問題になるのは、ネガティブな思考とフィージョンして行動ができなくなることです。
その時は、今回紹介した「脱フィージョン」の方法を使って、思考や感情と距離を置くとベストです。
まとめ:ネガティブな感情は脱フィージョンしよう
ACTシリーズ第2弾「脱フィージョン」のまとめです。
脱フィージョン:ネガティブ思考や感情と自分を切り離すこと。
【脱フィージョン10の科学的メソッド】
- 方法①私は〇〇という考えをもっている
- 方法②音楽にのせる
- 方法③真剣に受け止めない
- 方法④心に感謝する
- 方法⑤アニメキャラに言わせる
- 方法⑥パソコンの画面に表示させる
- 方法⑦なぜ?を繰り返す
- 方法⑧箱に入れる
- 方法⑨ストーリーにタイトルをつける
- 方法⑩その思考は役に立つか考える
注意:フィージョンは敵ではない(好きな音楽を聴くときなどはフィージョンしてもいい)
脱フィージョンは、自分の頭の中に出てきたネガティブな思考を消そうとするのではなく、単なる言葉として受けとめる。
受け止めずに逃げようとすると、かえって逆効果になります。
自分がネガティブな思考や感情がでてくるたびに、今回紹介した脱フィージョンの方法を1つやり続けるといいですね。
毎日5回から10回を目標に続けると効果がでます。
自分に合った脱フィージョンを見つけて、ぜひ使ってみてください。
脱フィージョンの内容についてさらに深めたい方は、ラスハリスの『幸福になりたいなら幸福になろうとはしてはいけない』がお勧めです。
ちょうどACTを学び始めた初心者向けの指南書として多くの人に読まれています。
ネガティブな思考や感情と自分を切り離すことができると、どんな状況でも動じない心でいられます。
次回は、ACTシリーズ第3弾「観察する自己編」にうつります。
僕らの心には、いろいろ価値判断を言ってくる「考える自己」と、客観的にありのままを判断する「観察する自己」の2つがあります。
観察する自己に自分をもっていくことができれば、ブッダみたいに思考にふりまわされずに物事を冷静に判断できるようになります。
ACTのなかでも難しいステップに入るので、ゆっくり読んで頂ければと思います。
>>【次回】最強の認知行動療法ACTのやり方③~観察する自己編~
<<【前回】最強の認知行動療法ACTのやり方①~イントロ編~
【参考文献・データ等】
- ラスハリス『幸福になりたいなら幸福になろうとはしてはいけない: マインドフルネスから生まれた心理療法ACT入門』
- ラスハリス『使いこなすACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)』
- Russ Harris(2014)The Confidence Gap: A Guide to Overcoming Fear and Self-Doubt
- 鈴木裕『超ストレス解消法 イライラが一瞬で消える100の科学的メソッド』
【記事執筆】あすか
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