最強の認知行動療法ACTのやり方③~観察する自己編~
前回「脱フィージョン編」では、ネガティブな感情と自分を切り離すテクニックを紹介しました。
感情と自分を切り離すことができたら、次は客観的に見れるようになるためのステップ「観察する自己」に入ります。
自分を客観的に見れるようになると、
- 相手から何を言われてもスルーすることができる
- 自分の欲求をコントロールすることができるようになる
- 物事を感情をいれずに客観的に判断できる
などのメリットがあります。
では、どうすれば感情にのまれずに自分が客観的に判断できるようになれるのでしょうか?
今回はそのありのままで観察する自分になれるためのACTについて紹介したいと思います。
ACTのやり方については、ラスハリスの『幸福になりたいなら幸福になろうとはしてはいけない』が最も参考になります。
これからACTを実践する人に向けてまとめてくれているので、多くの人が最初に読む専門書として利用してます。
ACTについてもっと深めたい方は読んでみることをお勧めします。
それではACTシリーズ第3弾「観察する自己編」についてみていきましょう。
観察する自己とは?
ACTでは、人の心を2つに分けています。
「考える自己」と「観察する自己」です。
考える自己は、あなたに対して価値判断をつぶやいています。
一方で観察する自己は、良いか悪いかの判断はせず、ありのままを客観的に見るだけです。
例えば、時計を見て「10時30分の針を指している」は観察する自己。
でも「作業始めてもう2時間たつのにまだおわってない!自分はなんてダメなやつなんだ!」と思うのが考える自己です。
このフェーズでは、日々自分にわいて出てくる「考える自己」と「観察する自己」を分けられるようになれるかが重要になっていきます。
というのも、私たちの行動が妨げられる原因のほとんどが考える自己だからです。
たとえば「今の仕事を辞めてフリーランスとして働く」は出来事ですが、それに対して考える自己がいろいろ言ってきます。
- 「収入が不安定なフリーランスで働いてどうするんだ」
- 「収入0になったらヤバいじゃん」
- 「どうせ個人で起業してもうまくいかないでしょ」
問題なのは、そのいろいろ自分の頭に出てくる言葉を信じて、行動しなくなることです。
未来のことはだれにもわからないのに、考える自己が悪いイメージでコントロールしようとしてあなたを行動させないようにする。
でも「考える自己」と「観察する自己」を分けられるようになれば行動力を落とさずにすみます。
といっても、これは体験してみないといまいちよくわからないと思うので、実際にどうすれば分けることができるのか5つ方法を紹介します。
観察する自己と考える自己を分ける方法5選
観察する自己と考える自己を分ける方法は次の5つです
【観察する自己と考える自己を分ける5つの方法】
- 方法①深呼吸を10回する
- 方法②ショート動画をつくる
- 方法③悪魔の脅しから脱フィージョンする
- 方法④子供のときに刷り込まれた感情を知る
- 方法⑤ネガティブな感情を増やす6つの思考に気づく
これらの方法を実際にやってみると、自分の心の中でいろいろ言ってくる「考える自己」と客観的に見ている「観察する自己」の2人がいることに気づくはずです。
方法①深呼吸を10回する
観察する自己と考える自己を分ける方法1つ目は「深呼吸を10回する」です。
深呼吸なので、目を閉じて、深い呼吸を、できるだけゆっくりするようにします。
ゆっくり呼吸するたびに、身体がどう感じるかに注意をむけます。
- 空気が肺のなかに入っていく感覚
- 息が鼻から出ていく感覚
- 肺がからっぽになる感じ
などいろんなものを感じるはずです。
深呼吸をしながら、あなたの頭の中で考える自己が出てきたり消えたりしているはずです。
- 「やりたいこといっぱいあるけど、もう夜遅いから早く寝なきゃな…」
- 「明日から仕事はじまって最悪だなぁ…」
- 「そういえばまだあの服洗濯してなかったな…」
などが生まれては消える。
このとき、前回やった「脱フィージョン」をします。
- 自分は「明日から仕事はじまって最悪だなぁ…」という考えを持っているな
と、思考と自分を切り離したりします。
- 考える自己が何かをいう
- →それを切り離して観察する自己に戻す
- →また考える自己が何かをいう
- →それを脱フィージョンで切り離して観察する自己に戻す
これを繰り返します。
すると、観察する自己と考える自己の2つの違いがはっきりわかるようになります。
このエクササイズは、頭の中で思考がわいてくるたびに意識的にできるといいですね。
- 信号待ちしてるとき
- 誰かと待ち合わせしてるとき
- パソコンを起動させている間
などいろんな場面で使えます。
もし時間的に厳しければ、3、4回の深呼吸でも効果があります。
目標は1日合計10分、慣れてきたら20分くらいに伸ばせるとさらに効果的です。
これを続けると、何度思考にあなたがつかまりそうになっても、簡単に外すことができます。
観察する自己に自分を正すことができれば、価値判断にとらわれなくなります。
方法②ショート動画をつくる
観察する自己と考える自己を分ける方法2つ目は「ショート動画をつくる」です。
最低でも10秒、最大2分でつくります。
といっても、実際にショート動画を作成する必要はありません。
ネガティブな感情や思考がわいてきたら、それを頭の中でYouTubeやインスタのショート動画みたいにビデオクリップにします。
例えば、自分が上司にみんなの前で怒られる場面を思い出して、それを動画で再生するイメージです。
画面の中に自分と上司とそのまわりにいる人たちがいて、その動画を見るような感じです。
通常再生したあとは、次のような感じで編集して遊んでみます。
- ショート動画を逆さにする
- スローモーションにする
- 逆再生にする
- 2倍速で再生する
- 色を白黒にする
- 明るさを上げて再生する
- 字幕をつける
- 怒られている場面でBGMを流す
- 場所をスマホの画面とか映画館のスクリーンなど自由に変えたりする
こうやって遊んでみると、まるで本当に自分のことであるかのように思っていたのが、一歩ひいて外から自分を見ることができませんか?
YouTubeでみるようなショート動画として、客観的にとらえることが大事です。
これが考える自己と観察する自己が分かれている状態です。
方法③悪魔の脅しから脱フィージョンする
観察する自己と考える自己を分ける方法3つ目は「悪魔の脅しから脱フィージョンする」です。
何か行動しようとすると、ふっと悪魔がでてきて私たちをいろいろ脅したりします。
たとえば新しいアイデアを思いついても「周りはそんなアイデア採用しないぞ!」と脅してくる。
でも、いくらあなたに悪魔が脅してきたとしても、悪魔はあなたに直接危害を加えることはありません。
悪魔があなたに直接危害を加えないことに気づくための質問を4つ紹介します。
【悪魔があなたに危害を加えないとわかる質問】
- 1)もし苦痛な思考や感情が邪魔しないなら、自分の行動はどう変わるか。(例)好きな仕事をして生計を立てたいな。
- 2)時間とエネルギーが感情に奪われないならどんな行動をするか。(例)行きたかった大学に行きたいな。
- 3)恐怖がなかったら自分は何をするか。(例)思い切って起業したいな。
- 4)失敗するという思考に邪魔されないなら何をするか。(例)アートの道を極めたいな。
この1~4の質問に答えたとき、あなたの頭の中では、悪魔がささやき始めたと思います。
「今の時代起業なんてうまくいかないよ!」「好きなことだけではやっていけないぞ!」
そう悪魔があなたに脅してきたときは、「脱フィージョン」します。
- 「色々教えてくれてありがとう。お疲れ様。」
- 「自分は “好きなことだけではやっていけない” と考えているな」
などとネガティブな思考と自分を切り離していきます。
このエクササイズを1日5分続けると、あなたの人生で恐怖の悪魔から受ける影響を減らせます。
方法④子供のときに刷り込まれた感情を知る
観察する自己と考える自己を分ける4つ目の方法は「子供のときに刷り込まれた感情を知る」です。
自分がどんな感情や思考がでやすいのかは、子供のときを振り返ると把握できます。
理由は、多くの人が親や学校の先生などの影響を強く受けているからです。
それがわかる質問があります。次の1~6の質問に答えてみてください。
- 1)どんな感情が良く、どんな感情が悪いと教えられたか?(例)上機嫌でいることは良く、イライラするのは良くない。
- 2)感情に対処する一番良い方法は何と教えられたか?(例)ストレスがたまったらグチをいう。誰かに吐く。
- 3)家族がよく使っていた感情表現はなにか?(例)「嬉しい」「幸せ」「ありがとう」
- 4)どんな感情が抑圧されていたか?(例)悲しい。辛い。くよくよする。
- 5)大人たちは自分のネガティブ感情にどのように対処していたか?(例)母は睡眠をとっていた。父は物に八つ当たりしていた。
- 6)結果、自分の感情についてどんな見方をするようになったか?(例)自分の感情はあまりみせない方がいい。怒りを感じても抑えるべきだ。
この1~6の質問に答えてみると、自分の思考のパターンやクセがわかります。
あなたが子どものときに刷り込まれた感情や、わいてきた感情に対してどのように抵抗するのかが分かります。
これらの思考のパターンが出てきたら、
- 「あ、よく自分のなかにやってくる考える自己だ。教えてくれてありがとう。」
と「脱フィージョン」するといいですね。
方法⑤ネガティブな感情を増やす6つの思考に気づく
最後、観察する自己と考える自己を分ける5つ目の方法は「ネガティブな感情を増やす6つの思考に気づく」です。
私たちには、ネガティブな感情を助長する口ぐせがあります。
この考え方にとらわれてしまうと、自分の時間とエネルギーがごっそり消費されてしまいます。
もし次のような思考がわいてきたら、その思考をキャッチして、脱フィージョンで切り離すといいですね。
あなたのネガティブな感情を増やす6つの思考を紹介します。
1「どうしてこんな気分なんだろう?」
この考えは、自分がいま感じている気分の原因を検証することになるので、さらにネガティブになります。
例えば、
- どうして自分はいま悲しいんだろう?自由な時間がないからだ…。
- どうして自由な時間がないんだろう?自分が仕事に縛られているからだ…。
- どうして仕事に縛られてるんだろう?自分には能力がないからだ…。
という感じになります。
なぜネガティブな気分なのか理由を見つけても、それは不快な感情を助長させるだけで、あなたにとって何の役にも立ちません。
ただ問題の検証に時間をとられるだけなので、脱フィージョンして「あ、考える自己がそう言っているんだな」と気づくことが大事です。
2「こんなことになるなんて、自分がなにをしたっていうの?」
この考えは、過去の自分を責めるための考えにしかなりません。
過去に起きたできごとで「あのときああしていれば…」と自分を責めたり、「自分の力ではもうどうにもならない…」と自分は無力な人間だと感じてしまいます。
ACTでは自分にとってそれが役に立つのかどうかを考えます。
この場合は考えても意味がありません。
3「どうして自分はこうなんだろう?」
この問いかけをすると、自分がいまの境遇に置かれた理由を探すだけに終わります。
イライラしたり、絶望したり、両親を責めたりする結果に終わるので、それよりはいまの自分を改善するための方法を考えるのが大事です。
たとえば、
- 「いつまでたっても年収が変わらない。それは大学に行かせなかった親が悪いんだ!」
と考えるとネガティブな感情を増やすだけです。
その時間は、年収を上げるための資格勉強をしたり、スキルを上げたりするのにかける方が自分のためになります。
4「自分にはどうすることもできない」
この考え方になりがちな人は、いまの状況を乗り越えるには自分が弱いからだとネガティブな思い込みを深めるだけです。
自分には耐えられないとか、自分には対処できないと思うときにも同じような結果になります。
この思考にハマると、あと少しで乗り越えられるはずの壁も乗り越えることができなくなってしまいます。
5「こんなふうに感じるべきではない」
この考えは答えのない問いを考えすぎて疲れるだけに終わります。
自分が感じた気持ちを無視したとしても、実際にそう感じたという事実は変わりません。
そもそもどのように感じるべきかなどと考えても役に立たないので、意味がないといえます。
6「こんなふうに感じなければいいのに」
この考え方をよくする人は、ありもしない可能性をうじうじ考える結果に終わります。
もし違う感じ方ができたらどんなにいいだろうと考えても、あなたの役に立つことはありません。
これらの思考がわいてきたら、僕らは立ち止まってしまいます。
なので1~6の思考がでてくるたびに「脱フィージョン」して、わきに置いておくを繰り返します。
すると考える自己に飲み込まれなくなります。
注意:不快感と戦おうとしない
ACTをするときに注意したいのは、「不快感と戦おうとしない」ことです。
考える自己は、私たちにいろんなことを言ってきます。
- 「まだ仕事が終わってないのは、お前の能力が低いからだ!」
- 「いつもイラついてるのは、感情のコントロールが下手だからだ!」
考える自己が放つセリフは、自分の感情を不快にします。
その時、自分の不快感を追い出そうとしたり、押さえつけたりしようとすると、さらに大きくなってあなたへ襲いかかってきます。
問題なのは不快感そのものではなく、不快感が増幅することです。
たとえば、上司から「何か気になることはある?」と聞かれて気になることを答えたら「それってあなたの感想だよね」と言われて不快に思った。
そのとき、
- 「感想をいう場面で感想いっただけなのに!理不尽だ!」
と不快感が増幅するのはまずい。
嫌な気持ちになったとしても、観察する自己になって、「あの人、質問した内容と合ってないな」と客観的にみるのが大事です。
まとめ:観察する自己で動じない心をつくろう
行動療法ACT第3弾「観察する自己編」のまとめです。
- 人の心には、「考える自己」と「観察する自己」の2つがある。
- 「考える自己」は価値判断をつぶやき、「観察する自己」は善悪の判断はせず、ありのままを客観的に見る。
- 「観察する自己」と「考える自己」をわけることができれば、ネガティブな思考や感情に飲み込まれず、行動力を上げることができる。
【「観察する自己」と「考える自己」を分ける方法】
- 方法①深呼吸を10回する
- 方法②ショート動画をつくる(頭の中のイメージでOK)
- 方法③悪魔の脅しから脱フィージョンする
- 方法④子供のときに刷り込まれた感情を知る
- 方法⑤ネガティブな感情を増やす6つの思考に気づく(「どうして自分はこうなんだろう?」「こんなふうに感じなければいいのに」など)
注意:不快感と戦おうとしない(問題なのは不快を感じることではなく、不快感が増幅すること)
観察する自己と考える自己の違いがわかるようになると、自分を受け入れることができるようになります。
他人からの評価にも依存しなくなります。
繰り返しますが、ネガティブな感情や考えをもったら「脱フィージョン」して、観察する自己で客観的にみることが大事です。
不快な感情を追い出そうとするとさらに大きくなって僕らに襲いかかってくるので、受け入れていくことも大切になっていきます。
とはいっても、不快な感情の受け入れ方をまちがえるとすぐにまたフィージョンして、ネガティブな感情が増えてしまう可能性があります。
そこで次回ACT第4弾では、ネガティブな感情を受け入れるための方法「拡張編(アクセプタンス)」に移ります。
拡張というのは、
- 辛い感情とか悲しい気持ちになったときに、その感情の居場所をつくる
- 不快な感情を追い出そうとするのではなく、「ここにいてね」といって自分の中に場所をつくる。
というようなものです。
するとそのネガティブな感情がそこにいるのに飽きてきて、自然と消えていくというものです。
ACTについては、ラスハリスの『幸福になりたいなら幸福になろうとはしてはいけない』がお勧めです。
今回の記事の内容とあわせて読むとさらに理解を深めることができます。
本記事でも十分対応できる内容となっていますが、興味のある方はぜひ参考にしてみてください。
>>【次回】最強の認知行動療法ACTのやり方④~拡張編(アクセプタンス)~
<<【前回】最強の認知行動療法ACTのやり方②~脱フィージョン編~
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