嫌なことを思い出す時の対処法4選―反すう思考が起こす深刻なデメリット―
- 「何も手伝わないくせに旦那が私の作った料理にケチつけた」
- 「自分は悪くないのに、あいつが俺に責任を押しつけた」
- 「恋人がいないのを上司がニヤニヤしながらいじってきた」
これらの嫌な記憶は、なかなか思い出さないようにしようと思っても忘れることはできません。
なぜなら人間の脳は楽しいことや幸せな出来事よりも、ネガティブなことを強く印象に残りやすくできているから。
なので自分の頭のなかでくりかえし嫌なできごとが浮かんできてしまって、その度に気持ちがどんどん沈んで心が折れる。
このくりかえし思考がループすることを「反すう思考」といいます。
反すう思考は、
- 自己否定しすぎる
- 問題解決能力が低下する
- メンタルが弱くなる
など色んな問題が生まれます。
解決策をみつけるとか、分析するために振り返るのはいいのですが、ただぐるぐると嫌なできごとを思い出すのは悪影響しかありません。
そこで今回は、嫌なことを思い出す時の4つの対処法とデメリットについて紹介します。
本記事は、主にセラピストであるガイ・ウィンチの『自分で心を手当てする方法』という本をもとにしています。
今回の記事とあわせて読んでおくと嫌な記憶への対処法をもっと深く理解できます。
気になる方は、実際に手にとって確認してみてください。
嫌なことを思い出す時の対処法4選
嫌なことを思い出す時の対処法は次の4つです。
【嫌なことを思い出す時の対処法4つ】
- 対処法①他者の視点で思い出す
- 対処法②気分転換リストをつくる
- 対処法③リフレーミングする
- 対処法④他人の幸せを願う
どれも個人でできる方法です。専門のカウンセリングはいりません。
まずは、短期間で効果がでやすいテクニックから紹介します。
嫌なことを思い出す時の対処法①他者の視点で思い出す
嫌なことを思い出す時の対処法1つ目は「他者の視点で思い出す」です。
自分の視点で思い出すとつらくなりますが、他人の視点で思い出すようにすると自分のことを一歩引いて観察できます。
例えば、あなたが過去に職場でみんなが見ている前で上司から大声で怒鳴られたとします。
嫌な出来事を思い出すとき、通常自分の目をとおした視点で思い出しています。(R)
この場合、自分があの時感じた嫌な感情も思い出してしまってイライラしていしまいます。
これを他者視点で、つまりあなたの近くにいる人があなたを見ているように思い出します。
すると、1歩引いた視点で自分を客観的に観察できるので、嫌な記憶に対するストレス反応を減らせます。
この効果はその場限りではなく、
- 1週間たった後でもストレス反応が軽減される
と調査でわかっています。
嫌なできごとを思い出すたび、映画のように他者の視点で見るようにすれば、だんだんと反すう思考から解放されます。
もっとも簡単にできるテクニックなので、ぜひ試してみてください。
嫌なことを思い出す時の対処法②気分転換リストをつくる
嫌なことを思い出す時の対処法2つ目は「気分転換リストをつくる」です。
極端にいえば、人は没頭しているときが幸せです。
なぜなら人は何かに没頭していると、ネガティブなことを考えなくなるからです。(R)
そのためあなたがどんなときに没頭しやすいか、集中できるのかを考えて、気分転換リストを作ってみましょう。
できれば、短時間にできること・長時間をかけて行うものを両方作っておくと汎用性が高くなるので便利です。
参考までに例をあげると、次のような感じになります。
(例)気分転換リスト
【短時間でできる】
- スマホでゲームする
- 瞑想する
- マンガを読む
- 自分の好きな音楽を聴く
- 腕立て伏せをする
- アニメを観る
- 海を眺める
【長時間かけてする】
- スポーツをする
- 絵を描く
- ランニング
- 専門書を読む
- 映画を見る
- 旅行に行く
気分転換リストは、あなたが没頭できるものであればなんでもOKです。
どんな場所にいたとしても使えるように、リストはたくさんつくっておくと便利です。
思いついたのがあれば、スマホのメモ帳や紙などに記録して、普段から持ち歩くようにします。
「でも仕事中だと気分転換が難しい」という方は、会社の階段を使って「思い切ってかけあがる」というのもアリです。
なぜなら階段をうぉぉぉ!と思いっきりかけあがっているときに、「あぁ、どうして自分はあの時あんなミスをしたんだろう…?」と冷静に考えることは難しいからです。
別のことに没頭すると、ネガティブな思考のループがとぎれ、冷静な自分に戻ることができます。
嫌なことを思い出す時の対処法③リフレーミングする
嫌なことを思い出す時の対処法3つ目は「リフレーミングする」です。
リフレーミングというのはかんたんにいうと、
- 嫌な出来事の解釈を変えること
をいいます。
リフレーミングをすると、辛いことや嫌な出来事を無害なできごとに変えれます。(R)
といっても抽象的であまりピンとこないと思うので、解釈を変える例を3つ紹介します。
結論から言うと、
- 1 チャンスに変える
- 2 モチベーションに変える
- 3 学びに変える
の3つです。
解釈①チャンスに変える
1つ目のリフレーミングの方法は「チャンスに変える」です。
例えば、勤めていた会社の環境や人間関係が辛くて、あなたが退職したとします。
貯金も残り少なくて、今後どう生活していけばいいのか悩んでいるとします。
これを
- 「今とても苦しい状況だけど、自分を高めるチャンスだ」
- 「これからの自分の人生に真剣に向き合える時間ができた」
などと解釈します。
自分のこれまでの人生の過去をふりかえってみるとわかりますが、自分たちは苦しい状況を乗り越えたときほど成長し、あとになっていい経験をしたなと思います。
- 「ピンチだけどチャンスでもある」
と考えることができれば、悩むことへの負担を減らせます。
解釈②モチベーションに変える
2つ目のリフレーミングの方法は「モチベーションに変える」です。
たとえば、あなたが上司から「あなたにはこの仕事は向いていない!」と怒鳴られたとします。
反すう思考になりやすい人は
- 「自分はこの仕事に向いていないんだ…。」
- 「向いてないって言うなんてひどすぎる!」
などと落ち込んだり、怒りを覚えたりします。
これをリフレーミングして
- 「この言葉が自分を強くしてくれる」
と考えます。
本を読んで学んだり、場数をこなしてスキルを上げたりして、逆に仕事に熱を入れます。
- 「何年か努力を続けて、いつかあの上司よりも仕事ができて稼げるようになるんだ!」
とモチベーションに変えます。
「自分の会社は年功序列だから無理だよ」という方は、転職してその上司だった人の給料よりも何倍も稼ぐというのも手です。
転職がリスクなら密かに副業から始めて、軌道に乗ったら会社を離れるのもオススメです。
いずれにしても、怒りの熱をモチベーションに変える、エネルギーに置き換えるのが大切です。
解釈③学びに変える
3つ目のリフレーミングの方法は「学びに変える」です。
どんなに嫌なできごとでも、そこから学べることがあります。
嫌なことについて、
- 「あのできごとは本当に嫌だったな…辛かったな…」
と、ただ落ち込むだけではいつまでも過去に生きることになります。
ですがいったん立ち止まって、
- 「あの出来事から何が学べるかな?」
と考えれば、今を生きることができます。
未来に向かって現状を改善したり、自分の成長につなげられたりします。
たとえば、過去に職場でセクハラを受けたことをふと思い出して、
- 「あの頃の私はすごい辛かったな…。朝いつも胃が痛かったし、帰りもぐったりしてたな…」
とただ思い返すのではなく、
- あの時だれかに相談していれば、状況は変わったかもしれない。
- →【学び】これからは辛いことがあったら、一人で解決しようとせずに必ず誰かに相談しよう。
- ハラスメントは身も心も自分をダメにする。
- →【学び】だから自分が先輩や上司になったら、後輩や部下に同じ思いは絶対にさせないよう常に気にかけよう。
- あの時はあの会社で働く以外の選択肢はなかったな。
- →【学び】自分の行動次第で環境はいくらでも変えられたんだな。
と、【学び】に変えます。
過去の経験を学びに変えれば、これからのあなたの人生に大きな成功を与えてくれるかもしれません。
嫌なことを思い出す時の対処法④他人の幸せを願う
最後、嫌なことを思い出す時の対処法4つ目は「他人の幸せを願う」です。
他人の幸せを願うというとなんだかスピリチュアルな感じがすると思いますが、だれかの幸せを願うと、人の怒りは軽減するとわかっています。(R)
例えば、
- 「この人が楽しい人生を送れますように」
- 「すれ違ったあの人が幸せになれますように」
と願う。
1日10分、1~2週間続けると気持ちが落ち着いてきます。
最初はちょっと恥ずかしいですが、だんだん慣れてきます。
あとはかなり上級者向けですが、自分が嫌いな人の幸せを願えるようになるとさらに効果的です…!
なぜなら幸せを願うので一番難しいのは、自分が嫌いな人の幸せを願うことだからです。
中々できる人はいないので、先ほど紹介した対処法①~③が自然とできるようになってから、プラスαで挑戦してみるのがいいと思います。
一応、
- 「自分を傷つけた人は、実は弱い人なんだな。助けが必要な人なんだな」
と最初に考えてから自分が嫌いな人の幸せを願うようにすると、少しはやりやすくなるとされています。
たとえば、
- 「あの人が威圧的なのは、きっと弱い人間だからだろうな。だれかの助けが必要なんだな。でもそんなあの人でもいつか幸せになりますように…」
と願う。
もし、あなたが嫌いな人を許せるようになると、その人への恨みも断ち切ることができて、余計に思い出す時間をとられずに済みます。
その分、自分が大事なことに集中できます。
どうしても嫌いな相手の幸せを願えない、幸せを願った瞬間に「うっ!ゴホゴホッ!」と気持ち悪くなってしまうという方は、すれ違った人の幸せを願うだけでも十分な効果があります。
まずは見知らぬ人の幸せを願うことからスタートしてみてください。
嫌なことを思い出す4つのデメリット
ちなみに、嫌なことを思い出すと深刻なデメリットが生じます。
メンタルはもちろん、私たちの人間関係にも悪影響をおよぼしてしまいます。
嫌なことを思い出すデメリットは、大きく次の4つです。
【嫌なことを思い出すデメリット】
- デメリット①うつになりやすくなる
- デメリット②怒りが激増する
- デメリット③判断力が低下する
- デメリット④人間関係が悪くなる
順に解説します。
嫌なことを思い出すデメリット①うつになりやすくなる
嫌なことを思い出すデメリット1つ目は「うつになりやすくなる」です。
これはなんとなくイメージで理解しやすいと思います。
日々過去の嫌なできごとをくりかえし思い出すと、常に頭のなかがネガティブなことでいっぱいになります。
ネガティブなことで頭がいっぱいになると、
- 物事にたいして何のやる気も感じられなくなる
- 「どうせ自分なんて…」と後ろ向きに考える
などの症状がでます。
反すうすればするほど、自分を否定したり、嫌な気持ちが増幅してひどくなります。
実際、被験者に「いまの気分について8分間考えてください」と指示した実験では、悲しい気持ちだった人は8分間でさらに悲しみが大きくなったと答えました。
反すう思考におちいっている人は、悲しみを感じる状態が毎日続きます。
するといつかうつになって、無気力でどんなことにも興味が持てなくなります。
嫌なことを思い出すデメリット②怒りが激増する
嫌なことを思い出すデメリット2つ目は「怒りが激増する」です。
過去に悪口をいわれたことや裏切られたできごとを思い出して、急にカッと怒りが湧き上がってしまう。
人はイライラすると、普段は気にもとめないようなことでも我慢ができずに怒りやすくなります。
攻撃性が高まって職場の人にも厳しくなり、わざとでないミスにも怒りを爆発させたり、相手が困っていても助けなかったりするようになります。(R)
最悪の場合、家族や恋人にも攻撃的になったりして、人間関係が壊れてしまうこともあります。
人間関係が壊れるときいて「じゃあ物に当たればいいのでは?」と思った方もいるかもしれません。
ですが、サンドバッグを殴るなど物にあたって怒りを発散させようとする行為は、かえって怒りを増幅させると研究で明らかになっています。(R)
怒りは発散方法をまちがえると、かえってストレスが溜まってしまうので気をつけたいところです。
嫌なことを思い出すデメリット③判断力が低下する
嫌なことを思い出すデメリット3つ目は「判断力が低下する」です。
判断力が低下する理由は、嫌な記憶に脳のリソースがつかわれてしまって、その分脳の機能が落ちるからです。
たとえば、
- 重大なミスをしたとしても周りへの報告が遅れる
- だんだんと時間管理ができなくなって遅刻をしてしまう
- パフォーマンスが低下する
などの場面がでてきたりします。
本当の原因は嫌なことを思い出してしまったのが理由なのですが、実際にミスや失敗が増えてしまうと、
- 「やっぱり自分ってダメな人間なんだな…」
とさらに自分を責めて負のループから抜け出せなくなってしまいます。
嫌なことを思い出すデメリット④人間関係が悪くなる
最後、嫌なことを思い出すデメリット4つ目は「人間関係が悪くなる」です。
悩みを抱えていると、僕らは家族や友だち、パートナーなどに話をします。
それが解決のための相談であれば問題ありません。
ですがあなたが反すう思考にとらわれているときは、本人は無意識に話す内容も同じように何度もくりかえし話をしてしまいます。
自分の悩みを聴いてもらっているほうは、始めは親身になって話を聴いてくれます。
ただそれが何十回と繰り返されると、だんだんと辛くなっていきます。
たとえば本人から電話が鳴るたびに
- 「あぁまたか…」
- 「これから1、2時間くらい電話するのか…」
などと思われるようになります。
たとえ身近な存在であったとしても、答えの出ない話を聴き続けるのは辛いものです。
なぜなら、労力や時間がかかっている割にはまったく改善しないからです。
最悪、電話をかけてもつながらなくなるかもしれません。
話を聴いてもあなたの力になれないことに、どうしようもない罪悪感を覚えて、自然と距離が離れていくこともあります。
- 1 うつになりやすくなる
- 2 怒りが激増する
- 3 判断力が低下する
- 4 人間関係が悪くなる
この4つのデメリットの影響を受けないために、私たちは前半で紹介した対処法で自分をコントロールする必要があるのですね。
嫌なことを思い出す時の対処法とデメリットまとめ
嫌なことを思い出すときの対処法とデメリットのまとめです。
- 嫌なことを思い出すのは、反すう思考(繰り返しネガティブなことを思い出す)が原因。そのため、反すう思考をなくすための対処法が必要になる。
【嫌なことを思い出す時の対処法4つ】
- 対処法①他者の視点で思い出す
- 対処法②気分転換リストをつくる
- 対処法③リフレーミングする(チャンスに変える、モチベーションに変える、学びに変える)
- 対処法④他人の幸せを願う
【嫌なことを思い出すデメリット】
- デメリット①うつになりやすくなる
- デメリット②怒りが激増する
- デメリット③判断力が低下する
- デメリット④人間関係が悪くなる
嫌なことをくりかえし思い出すと、仕事のパフォーマンスが落ちたり、自己肯定感がなくなったりするなどの悪影響がでてきます。
なので、自分のメンタルを定期的にケアしていく必要があります。
紹介した対処法はすべて個人でできます。
実際につかい続けてみると、いつのまにか反すう思考が減り、悩みにさいなまれることも自然と少なくなっていくのを感じるはずです。
ネガティブな感情にとらわれなくなれば、その時間を自分のスキルアップや成長のためにあてれます。
嫌な感情にのみこまれない方法については、ガイ・ウインチの『自分で心を手当てする方法』に詳しくまとめられています。
すべて1人でできるテクニックなので、高い評価をもらってる本です。さらに詳しい対処したい方は読んでみてください。
関連記事:あわせて読みたいメンタル改善テク
嫌なことを思い出す時の対処法に関するよくある質問
悩みは吐き出した方がいいって聞くけど本当?
【参考文献・データ等】
- ガイ・ウインチ『自分で心を手当てする方法』
- Ozlem Ayduk, Ethan Kross(2010)“From a distance: implications of spontaneous self-distancing for adaptive self-reflection”
- Susan Nolen-Hoeksema, Blair E Wisco, Sonja Lyubomirsky(2008)“Rethinking Rumination”
- Oliver John, James J Gross(2005) “Healthy and Unhealthy Emotion Regulation: Personality Processes, Individual Differences, and Life Span Development”
- Ryan H Bremner et al,(2011)“Pray for Those Who Mistreat You”: Effects of Prayer on Anger and Aggression”
- Brad J. Bushman et al,(2005)“Chewing on It Can Chew You Up: Effects of Rumination on TriggeredDisplaced Aggression”
- Brad J. Bushman(2010)“Does Venting Anger Feed or Extinguish the Flame? Catharsis, Rumination, Distraction, Anger, and Aggressive Responding”
- Gerald J. Haeffel(2010)“When self-help is no help: Traditional cognitive skills training does not prevent depressive symptoms in people who ruminate”
【記事執筆】あすか
【X(旧Twitter)】:https://twitter.com/askalabo
【Instagram】:instagram.com/aska.labo