今の仕事を好きに変える「ジョブクラフティング」のやり方~4ステップ解説~
いまの仕事にやりがいを見出す「ジョブクラフティング」について解説します。
ジョブクラフティングは、
「いまの仕事は好きではないけど、転職したいほどじゃないかな」
といったような、転職するよりも、どちらかといえば今の職場のほうがいいと考えている方に向いています。
その場合、いまの職場をどう良くするか、どうやりがいを見出すかに力を入れるとベストです。
そこでもっとも効果的なのが、「ジョブクラフティング」というテクニックです。
たいていの仕事は、やりがいを感じれば続けることができます。
物を運ぶような単純作業ばかりの仕事や、事務職のようにずっとパソコンに向き合うような仕事でも、「ジョブクラフティング」をすればやりがいを見出すことができます。
ジョブクラフティングは時間がかかりますが、その分効果は大きくなります。
そこで今回は、仕事のやりがいを作り出すジョブクラフティングを進める方法について紹介したいと思います。
ジョブクラフティングとは?

ジョブクラフティングは簡単にいうと「自分の仕事を価値観にもとづいてとらえ直すこと」をいいます。
この方法を使えば、仕事のモチベーションを高める効果が大きいことがイェール大学らの研究(R)などから明らかにになっています。
また、3万570人を対象にしたセントルイス大学が行ったメタ分析(R)でも、相関係数は
- 前向きな行動の増加:r=0.509
- 周囲の問題を積極的に解決する姿勢の増加:r=0.543
- 主体的に仕事に取り組む感情の増加:r=0.450
との結果が出ています。
相関係数とは、-1から+1までの数字で表されるもので、+1に近いほど効果があるというものです。
つまりこれらの数値は、ジョブクラフティングを使うとかなりの確率で仕事へのモチベーションが上がるということになります。
また、日々つまらないなと思うような仕事に、あらためて深い意味を見出すことができます。
たとえば、医療機器の製造で、あなたが1日ひたすらボトルをはめ込む作業をしていたとします。
この時、自分は何をしているのかとふと考えたときに
「ボトルをはめこんでいる」
「お金を稼いでいる」
などが答えだと、今後も毎日つまらない思いをしながら仕事をすることになります。
しかしここで、
「自分は人の命を救う手助けをしているんだ」
と自分なりの価値観を見出すと、ボトルをはめる作業を人助けとしてとらえ直すことができます。
このように自分の仕事を価値観にもとづいてとらえ直せば、どんな職業でも深い意味を見出すことだできます。
その方法が、ジョブクラフティングという手法です。
ジョブクラフティングを進める4つのステップ

では、具体的に仕事にやりがいを見出すにはどのようにすればいいのでしょうか。
ここでは最も効果が高いとされるペンシルベニア大学のジェーン・ダットン博士らが開発したジョブクラフティングを紹介します。
このジョブクラフティングは、大きく次の4つのステップをふむと仕事にやりがいを見出すことができるようになります。
【ジョブクラフティングを進める4つのステップ】
- ステップ1:配分をスケッチする
- ステップ2:価値観をリストアップする
- ステップ3:価値観をあてはめる
- ステップ4:具体的な行動を決める
順に説明していきます。
ステップ1:配分をスケッチする

ジョブクラフティング1つ目のステップは「配分をスケッチする」です。
「ビフォー・スケッチ」とも呼ばれ、自分の日々の業務を書きだしていくものです。
その後、それぞれの業務がどれくらいの時間つかっているのかをパーセンテージで書きます。
たとえば、書類の作成が40%、メールや電話の応対が30%、プロジェクトの立ち上げが20%、マニュアル作成が10%など、合計が100%になるように書いていきます。
下図のように、その仕事に必要な時間とエネルギーが多いほどブロックのサイズが大きくなるように書いていきます。

普段自分がやっている仕事について、配分を理解している人はほとんどいません。
そのため実際にスケッチして視覚化してみると
「思ったよりもメールや電話の応対に時間をとられているな」
「意外に大事な仕事に時間を割いていなかったんだな」
などといった点に気付くことができるはずです。
業務配分がアンバランスだと感じた場合は、どういったところを改善する必要があるのか考えてみるとより効果的です。
ステップ2:価値観をリストアップする

「配分をスケッチ」したら、2つ目のステップ「価値観のリストアップ」を行います。
自分が仕事を通じてどういう価値観を達成したいのかを考えます。
仕事を通じてどんな強みを伸ばしたいのか、どういうふうにモチベーションを高めたいのか、どういうふうに情熱を注いでいきたいのかを考えていきます。
というと、抽象的でなかなか思いつきにくいと思いますので、次のフレーズをヒントに自分なりの価値観を見つけてもらってもかまいません。
【動機について】
- 自由がほしい、成長したい、楽しくしたい、色んなことに挑戦したい、贅沢な暮らしをしたい、影響力を高めたい、人を助けたい、人を導きたい、新しいのを創りたい、有名になりたいなど
【強みについて】
- 判断力を高める、知識を広げる、企画力を上げる、効率的に仕事する、専門性を高める、学習力を上げる、忍耐力を鍛える、コミュニケーション能力をつける、集中力を上げる、問題解決力を高める、社交性を身につける、自己コントロール能力を高めるなど
たとえば、
・好きな場所で、好きな時間に自由に働きたい。
・自分の専門性を高めて、成長していきたい。
・影響力を高めて、有名になりたい。
などと自分が思いつく限りの価値観をリストアップしていきます。
ステップ3:価値観をあてはめる

「価値観のリストアップ」ができたら、3つ目のステップ「価値観をあてはめる」作業にうつります。
最初にスケッチした1つひとつの業務に対して、自分が達成したい価値観をいれます。
図の例でいうと、次のように書いていきます。

【価値観をあてはめる(例)】
- 書類の作成:資料作成スキルがほしい。文章力が鍛えられる、
- メールや電話の応対:コミュニケーション能力がつく。説明能力が手に入る。
- プロジェクトの立ち上げ:新しいのを創りたい、色んなことに挑戦したい。
- マニュアル作成:業務を効率化する能力を手に入れたい。
電話の応対であれば、まったく内容を知らない人に対してわかりやすく説明する力がつく。
説明能力がつくんだなと思えば、将来に活きるなと感じることができます。
プロジェクトの立ち上げであれば、新しいアイデアを生み出す創造力がつくだろうなと考える。
今後、自分たちの仕事はAIにどんどんとって代わられるだろうけど、創造力は今後も役に立つだろうなと考えられる。
この価値観をあてはめる作業は、人によって変わっていきます。
書類の作成でも、人によっては「情報を整理すること」にやりがいを感じたり「わかりやすく伝える表現を考える」に焦点をあてたほうがモチベーションが高まる場合もあります。
マニュアル作成でいえば、ある人にとっては「イラストを入れて見る人が楽しめるようにする」が向いているかもしれませんし、「内容を再構築して創造欲を満たす」ほうが向いている場合もあります。
すべては自分で自由に彩ることができるので、自分なりに価値観をあてはめてみてください。
ステップ4:具体的な行動を決める

最後、ジョブクラフティング4つ目のステップは「具体的な行動を決める」です。
このステップは「アクション・プラン」ともいったりします。
配分を決めて、価値観をあてはめたら、今度はそれにもとづく行動を決めます。
現在の仕事にやりがいを感じることができるまでは、3つ目のステップまで終わればできます。
しかし将来的には、時代の流れでいまやっている仕事がどんどん変わっていきます。
そのため、ここでは将来にもつなげていくためには何ができるかを考えていきます。
まずはジョブクラフティングの図を見ながら、あなたができそうなことを紙に書き出してみましょう。
こちらも抽象的でなかなか思いつきにくいと思いますので、次に紹介する質問をヒントにしてもらってもかまいません。
これはイリノイ大学などが従業員のモチベーションややりがいを高めるために開発したもので、
具体的な行動を決めたり、実行までの過程で発生しそうなトラブルを考えるのに役立ちます。
【アクション・プランに役立つ質問】
- 次の1週間のあいだにできそうな行動はなんですか?(例)報告書の図や写真を作成するため新しい描画ソフトを使う。
- 次の1ヶ月のあいだにできそうな行動はなんですか?(例)部署ごとに異なる報告書のフォーマットを一つにそろえる。
- 行動するにあたり、具体的な困難や障害はどのようなものがあると思いますか?(例)改善に時間をかけすぎてしまって、書類作成に使う時間が減るかもしれない。
- 困難や障害を乗り越えるためには、どのような戦略が使えますか?(例)あらかじめジョブクラフティング用の割り当て時間のリミットを作っておく
報告書をわかりやすくまとめたり、効率よく作業をすすめるための方法を考えて実践することは、いまの仕事だけでなく、将来の仕事にもつながっていきます。
わかりやすい報告書をまとめる作業は、文章力を鍛えるのに役立つでしょうし、効率的に仕事することはどの仕事に就いても必要になるはずです。
また、「もっと効率よく作業を進めるためにはどうすればいいだろう?」と考えることは、新しいアイデアを生み出す創造力を高めるのにも役立ちます。
このアクション・プランについて、どれくらい成果が出たのかは、以下の記事で知ることができるので、定期的にチェックしておくといいでしょう。
>>参考:【21の質問でわかる】日本語版ジョブクラフティング尺度~アクションプランの成果を知ろう~
まとめ:やりがいは自分でつくれる

今の仕事を好きに変える「ジョブクラフティング」についてのまとめです。
【今の仕事を好きに変える「ジョブクラフティング」まとめ】
- ジョブクラフティングとは、「自分の仕事を価値観にもとづいてとらえ直すこと」
【ジョブクラフティングを進める4つのステップ】
- ステップ1:配分をスケッチする
- ステップ2:価値観をリストアップする
- ステップ3:価値観をあてはめる
- ステップ4:具体的な行動を決める
あとは、あなたがジョブクラフティングの図をもとにつくったアクション・プランを実行すればOKです。
実行すれば、あなたのやりがいは確実に変わっていくはずです。
このジョブクラフティングは、仮に転職したときとか新しい仕事に変わったときでも使えます。
最初にスケッチして作成した図は、また1から作り直すケースはあまりありません。
新しい業務がくっついてくるのですが、少し前回と似たような仕事が残るパターンがほとんどです。
そしてまた価値観をリストアップして、配分をスケッチした図にその価値観をあてはめていけば、仕事がかわってもずっとやりがいを感じることができます。
【幸せを決めるPERMA理論】ウェルビーイングの高め方②~エンゲージメント編~でも紹介したように、仕事をするうえではモチベーションをどう高めるかは大事です。
パフォーマンスが上がるだけでなく、幸福度も高めることができるからです。
今回紹介したジョブクラフティングをすれば、あなたの仕事に関する悩みはだいたい解決します。
重要なのは、楽に仕事を終わらせようとか、新しい方法を考えようとするだけではなく、それらを超えるだけのモチベーションをどう上げていけるかです。
初めからやりがいをもっている人はいません。
自分なりの価値観にもとづいた行動をすることで、やりがいはつくることができます。
ジョブクラフティングは正直手間がかかって面倒くさい部分はありますが、やってみると継続的にやりがいを感じることができるようになります。
今回紹介した方法も十分な効果はありますが、ジョブクラフティングについてもっと深めたい方は鈴木裕の『科学的な適職』がお勧めです。
この記事でとりあげたステップ以外も解説されているので、より効果の高いジョブクラフティングができます。
もっと詳細を知りたい方はぜひ読んでみてください。
【参考文献・データ等】
- 鈴木裕『4021の研究データが導き出す 科学的な適職』
- Cort W. Rudolph,Kristi N. Lavigne,Ian M. Katz,Hannes Zacher(2017)Job Crafting: A Meta-Analysis of Relationships with Individual Differences, Job Characteristics, and Work Outcomes.
- Luigi Brocca(2019)Job Crafting, Work Engagement & Job Satisfaction. Un modello di mediazione delle nuove sfide al lavoro.
- Meredith Myers et al.( 2019) Job CraftingTM Booklet.