あなたが入社した時に覚えておくべき大切なこと

はじめに

あなたが学校を卒業し社会人になったとき、別の会社に転職したときなどに、知っておくべき労働条件の明示について解説します。
・面接で話していた約束と違う!
・働いてみたら説明会で話してた内容と異なってた!
・求人票に書かれれている内容とおかしい!
新入社員としてスタートをきって1か月。あなたは会社に言われた内容と実際の仕事の内容が違うことに疑問をもちます。
この問題は、後々になって大きな問題になることがあります。
そこで今回は、労働条件が最初の約束と違うなどを理由であなたにトラブルが起きる前に、知っておくべき労働契約に関する法律について徹底解説します。
労働条件の明示とは?

労働契約を会社と結ぶするときには、あなたに対して給料がいくらなのか、どんな手当が支給されるのか、休日はどれくらいあるのかといった労働条件を明示する義務が定められています。(労働基準法第15条)
明示される内容

具体的にあなたに必ず明示されるべき労働条件の内容は以下の①~⑥の項目です。(参考:労基法第15条第1項、労働基準法施行規則第5条)
【必ず明示しないといけない項目】
①労働契約の期間(例:令和○年4月から令和〇年3月まで)
特に期間が決まってなければ無期と考えていいです。パートであっても無期としているところもあります。
②有期労働契約の更新の基準(例:自動更新、更新することがある、更新しない)
③就業の場所、従事する業務の内容(例:場所は○○支店、業務は営業)
④労働時間に関する具体的な条件
始業終業時刻、休憩時間、休日、休暇、所定労働時間を超える労働の有無、交替制で勤務させる場合の終業時転換に関する事項
(例:〇時から〇時まで。休憩時間60分。休日は土日祝。夏季休暇3日あり。繁忙期は所定労働時間を超える残業、シフトを交替する場合もあり。)
⑤賃金の決定、計算、支払い方法、賃金の締め切りと支払い時期に関する事項
(例:基本給○○○○○○円、通勤手当○○○○円、深夜割増25%、口座振込、毎月末締めの翌月15日払い。)
⑥退職に関する事項(解雇の事由も含む)
(例:定年制あり。解雇や自主退職による退職は書面により通知する。)

④にある所定労働時間というのは、会社が決めた労働時間のことをいいます。
たとえば休憩なしで9時から13時までであれば、1日の所定労働時間は4時間ということになります。
次の⑦~⑪の項目は、あなたに当てはまる場合は明示する必要があります。(参考:労基法第15条第1項、労働基準法施行規則第5条)
【当てはまれば明示される項目】
⑦昇給に関する事項(例:昇給あり。毎年〇月頃)
⑧退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定・計算・支払方法、退職手当の支払い時期
(例:1年以上勤めた者に支給する。詳細は就業規則〇条のとおり。)
⑨臨時に支払われる賃金。(賞与は毎年6月、12月に実績に基づき計算して支払う。。詳細は就業規則〇条のとおり。)
⑩労働者に負担させるべき食費、作業用品その他に関する事項
(例:制服代及び作業靴は労働者負担)
⑪安全衛生、職業訓練、災害補償・業務外の疾病扶助、表彰・制裁、休職に関する事項
(例:休職は最大3年まで可能。詳細は就業規則〇条のとおり。)

賞与(ボーナス)の計算方法や、休職した場合の対応など細かく書く必要がある項目については、「詳細は就業規則〇条のとおり。」と書いてるところが多いですね。
全て書面に記載するとこうなる
ここまで読んだあなたは、「①~⑪の項目ってどうやってまとめられてるんだろう?」と疑問に思ったかもしれませんが、厚生労働省がモデルをつくってくれています。
次の様式は、この①~⑪の項目をすべて書いたものになります。このような書面でかかれたものが担当からあなたに渡されたのであれば基本的に問題ありません。


ちなみに、①~⑪の項目にくわえて、2024年4月から労働条件の明示する内容が新しく追加されます。(厚生労働省「2024年4月から労働条件明示のルールが変わります」)
追加される項目は次の4つです。
【2024年に新たに追加される項目】
①就業場所・業務の変更の範囲
(例:場所は原則○○支店だが、○○支店への応援を命じる場合もあり。業務は主に営業だが、繁忙期は配送業務を命じることがある。)
②更新上限の有無と内容(例:更新上限はあり。最大5回まで。)
③無期転換申込機会(例:入社日から〇年後からとする。)
④無期転換後の労働条件(例:無期転換後は賃金及び労働時間を変更する。詳細は就業規則〇条のとおり。)
2024年以降の話なのでまだちょっと先の話ですが、念のため今で確認しておくといいかもしれません。
書面での交付が原則

あなたの労働条件の明示の方法は、書面でもらうのが原則です。口頭だけでの説明は認められていません。
もし口頭だけで①~⑪の項目を説明しても認められるのであれば、全部覚えないといけないので大変です笑
ちなみにあなたが希望した場合は、次の通知でも法律上OKです。
・FAX
・EメールやWebサービス(Yahoo!メール,G・mailなど)
・SNSメッセージ
なので、あなたが同意すれば、LINEなどで労働契約書をもらってもOKです。

明示していないと罰金?

ちなみに、あなたに労働条件の明示がされず違反となった場合は、30万円の罰金に処されることになっています。(労基法第120条)
最悪の場合、監督署による送検が行われることもあります。
実際、過去の監督署の送検事例を見てみると、
・那覇労基署「日雇い労働者に労働条件明示せず告訴で違反発覚 宿泊業者を送検」(令和3年3月9日送検)
・尼崎労基署「労働条件明示せず書類送検」(令和元年9月10日送検)
などで、労働条件通知書を交付しなかったことを理由に会社が送検されています。

労働条件を明示しないことって、実はかなり重いことなんですね。
知っていますか?労働条件通知書と雇用契約書の違い

ちなみによく間違いがちなものとして、労働条件通知書と雇用契約書の違いがあります。
簡単にいうと、これらの違いはお互いの同意があるのか、拘束力があるのかという点です。
【労働条件通知書】あなたが入社した時などに会社が一方的に通知するもの。
【雇用契約書】お互いにこの労働条件での契約に同意したことを証拠として残すもの。
あなたが入社した時に、書面に自分のサインを書いたのであれば、雇用契約書の可能性が高いです。
また、裁判などでトラブルになった場合、雇用契約書は拘束力の強いものになります。
そのため、
・いつのまにか労働時間が長くなっていた
・同意してないのに時給が少なくなっていた
など労働条件の内容が書面の内容と変わっていれば、雇用契約書は証拠として特に強いものになります。
まだ労働条件の明示がされていないあなたへ
【対処法1】事務・人事担当に確認する

繰り返しますが、あなたの労働条件がどのようなものになっているのかは、会社が書面でちゃんと明示する義務があります。
なので、書面でもらっていないのであれば法律的にみても問題です。
ただ、会社が単に新入社員への研修とか社会保険の手続きなどで忙しく、
・雇用契約書は既につくっていたけどあなたに渡し忘れていた
などの可能性があります。特に新入社員の多い4月の時期とかはそうかもしれないですね。

もしまだあなたが書面でもらってなければ、一度事務や人事担当に書面でもらえないか確認するといいですね。
【対処法2】行政機関を利用する

事務・人事担当に確認しても、拒否された、見せないといわれた場合は違法になります。
しかし労働条件の明示がされていないことが違法だと知っても、いきなり裁判するのは多くの人にとってハードルが高いと思います。
特に裁判は、お金も時間も膨大にかかる可能性があるからです。
そこでおすすめなのが、行政機関の利用です。
行政機関は無料で利用でき、裁判と比べて対応が早いです。
サービスを利用できる行政機関を2つ紹介します。
①労働局に相談する

1つは労働局への相談です。
相談は、主に労働局の雇用環境・均等室で対応します。
【参考】
あなたの名前と会社名を伝えれば、相談員が間に入って、電話で説明してもらえます。
もちろん、匿名でまずは相談だけということも可能です。
デメリットとしては、行政サービスのため強制的がないことです。

相談員が対応しても、会社が頑なに拒否をするなどがあれば労働条件を書面でもらうことは難しくなります。
②監督署に申告する

2つ目は労働基準監督署への申告です。
あなたに労働条件の明示をしないことは、労基法第15条違反となるため、労働基準監督署で申告することができます。
【参考】
対応するのは労働基準監督官です。
労働基準監督官は司法権限をもっているため、会社が全く対応しないのであれば、最終的には司法になる可能性もあります。
【対処法3】転職する

事務・人事担当に確認→行政機関の利用をしても解決できない場合は、転職も視野にいれる必要があります。
というのも、労働条件の明示を口頭で契約するところは多く、そのためトラブルが起きた例がたくさんあるからです。
たとえば、
・日給1万円で口頭契約したのに、最低賃金で払われた。
・面接では事務で約束したのに、人手不足を理由に肉体労働がメインの部署にまわされた。
・ボーナスが毎年夏と冬にあると言っていたのに、これまで1回も賞与がなかった。
などがあります。
基本的に裁判は証拠主義的なところがあるので、あなたの主張が正しくても、立証できなければ賠償できない場合もあります。
あなたの労働条件があいまいなままで働いても構わないなら今の会社で働くのもありですが、現代は中小企業の約2社に1社が人手不足と呼ばれる時代です。

そのため、売り手市場である今の時期に転職し、いまよりも有利な条件の会社に転職しておくのもお勧めです。
最近では無料でプロに相談できるサポート会社も増えてるので、お金をかけずにそちらを賢く利用するのがいいですね。
【無料相談】
・キャリアアップコーチング
対象:20代~30代まで(転職希望者など)

・ウズキャリ
対象:18歳~29歳まで(第二新卒、既卒、就職浪人、大学中退、フリーター、転職希望者など)

まとめ

あなたに労働条件を書面で明示してるかしてないか。
たった1つの違いですが、これがあなたの人生を大きく変える問題になることがあります。
自分の労働条件を書面でもらってないために
・給料が約束よりも低い賃金で払われる
・まったく違う部署に配属される
・一度もボーナスが払われない
などの問題が起きたりします。
入社してしばらく経つのに、あなたがまだ書面で労働条件を明示されていないのであれば、まずは事務・人事担当などに確認するところからスタートするといいでしょうね。
労働条件の明示についてよくある質問

途中で労働条件が変わったときも書面の再交付は必要ですか?

あくまで明示の義務は採用されたときです。
途中で労働条件の変更があっても明示の義務はありません。
ただ、労働条件の変更には、あなたと会社の双方の同意が必要になります。
会社が一方的に労働条件を変更することはできないため、実務上はもう一回契約書を結ぶかたちに落ち着くことが多いです。

派遣の場合は、労働条件の明示は派遣元と派遣先のどちらがするんですか?

派遣元が行います。
派遣労働者は、派遣先ではなく派遣元で採用されるからです。

では、出向の場合は?

出向先が行います。
出向の場合、労働契約は出向先で行うからです。
【参考文献・データ等】
・労働基準法第15条、労働基準法施行規則第5条
・労働基準法第120条
・労働契約法第8条
・平成11.1.29基発第45号
・京都地裁判決昭24年(ワ)第147号京都市交通局事件昭24.10.20
・厚生労働省「労働基準法の基礎知識」
・厚生労働省「労働条件通知書モデル」
・厚生労働省「2024年4月から労働条件明示のルールが変わります」
・厚生労働省「平成31年4月から、労働条件の明示が FAX・メール・SNS等でもできるようになります」
・那覇労基署「日雇い労働者に労働条件明示せず告訴で違反発覚 宿泊業者を送検」(令和3年3月9日送検)
・尼崎労基署「労働条件明示せず書類送検」(令和元年9月10日送検)
・厚生労働省「雇用環境・均等部(室)所在地一覧(令和5年4月1日時点)」
・厚生労働省「全国労働基準監督署の所在案内」
・厚生労働省「令和元年版 労働経済の分析 -人手不足の下での「働き方」をめぐる課題について-」

