努力しても報われない?「1万時間の法則」はどこまで有効か検証してみた

自分を変える

※記事内に広告が含まれています。

努力しても報われない?「1万時間の法則」はどこまで有効か検証してみた

 今回は、「はたして努力はどこまで報われるか?」について、ミシガン州立大学などの研究をもとに解説します。

 努力ときいて、「1万時間の法則」を思い浮かべた方も多いかもしれません。

 「1万時間の法則」というのは、

  • 一流の人は、膨大な時間を徹底した練習に使っていた

 というもので、フロリダ州大学などの研究をもとに広まった考え方です。(R

 この研究は、有名ジャーナリストマルコム・グラッドウェルが簡単に説明しなおし、

  • 「1万時間の徹底した練習を行えば誰でも一流になれる!

 というキャッチフレーズにまとめたことで、さらに広まっていきました

 よく自己啓発の本を読む方は、努力の大切さを説明するために「1万時間の法則」が引用されるのを見たかもしれません。

 たとえばスポーツでいえば、「タイガー・ウッズは3歳くらいのときからゴルフの練習を始めていたから成功した」などがあります。

 日本でいえば、イチロー選手は子どもの時から365日素振りを続けたなども有名な話です。

 このように「1万時間の法則」は、

  • たとえ才能がなくても、努力を続ければ天才を超えることができる!
  • 練習を積み重ねていれば、だれでも一流の人になれる!

 という希望のある話としてよく使われています。

 ですが、研究がすすむにつれて、次第に「1万時間の法則」に対して大きな疑問がなげかけられるようになりました。

 パフォーマンスの高さと練習量の関係について代表的なのは、ミシガン州立大学によるメタ分析です。

 ミシガン州立大学は、「1万時間の法則」の真偽をはっきりさせるため、プロのチェスプレイヤーとミュージシャンのデータをあらためて調べなおしました。R

 すると、

  • パフォーマンスの高さと練習量は参加者によってバラバラであった。
  • あるアーティストは特定のスキルを2年で習得したが、別のあるアーティストは20年かかっていた。

 などの結果がでました。

 つまり、練習量が少なくても一流になれた人が大量に見つかったということです。

 むしろ、一流のミュージシャンのほうがそれ以外の平凡なミュージシャンよりも、実は練習量が少ない傾向も確認されています。()

 また、

  • 練習の影響は考えられていたよりも小さく、ある分野をマスターするための必要な要素のうち、練習の重要性が占める割合は12%程度しかない。

 ということも明らかになっています。

【図解】1万時間の法則「パフォーマンスの高さにおける練習の重要度」

筆者作成【図解】「パフォーマンスの高さにおける練習の重要度」参考:Accounting for expert performance: The devil is in the detail

 ほかの分野についても

  • 練習の重要性は、比較的高いものでもゲームが26%、音楽が21%である
  • ほぼ練習量とパフォーマンスに影響がないものとしては、勉強が4%、専門職が1%である

 との結果がでています。

 よく資格の勉強で何年も勉強を続けているのに毎年落ちている人がいて、数か月の勉強だけで1発合格している人がいます。

 それは、「天才と凡人の差は、努力した時間では埋められない」ということだったんですね。

 「天才と凡人の差は、努力した時間では埋められない」ときいて、なんだか夢のない話だなと思ったかもしれません。

 といっても、努力は全く意味がないわけではありません。

 努力は、大きく次の3つの条件にあてはまる場合は報われやすいことがわかっています。

【努力が報われやすい条件】

  • 条件1:トレーニング方法が確立されている
  • 条件2:ルールが決められている
  • 条件3:他人ではなく過去の自分と比べる

 順にみていきましょう。

 努力が報われやすい条件1つ目は「トレーニング方法が確立されている」です。

 何十年もかけて磨き上げられた定番のトレーニング方法がある場合は、それに沿って練習すればするほどパフォーマンスが上がりやすいことがわかっています。

 といっても、自分1人で練習するだけでは効果はでません。

 特にはじめて練習するときは、その分野の専門知識をもった人から指導を受ける必要もあります。

 ちゃんとスキルをもった先輩がいて、正しい練習法を教えてもらうというステップがあれば、練習の効果は出やすい傾向にあります。

 逆にいえば、トレーニング方法が確立されていない世界では「1万時間の法則」は効果を発揮しません。

 定番で正しい練習法がないとなると、そもそも徹底した練習を積むことができないからです。

 努力が報われやすい条件2つ目は「ルールが決められている」です。

 スポーツやチェスのような競技、数学のように明確なルールが決められている分野であれば、練習するほど報われやすいといえます。

 つまり同じようなことが繰り返し行われる世界であれば、過去の経験を活かせるので努力が報われやすいということです。

 スキル特化に時間をかけるほど、能力は上達しやすくなります。

 反対に、時代の変化に対応しないといけないような仕事は確立されたトレーニング方法がないので、努力しても報われるとはいえません。

 たとえば、営業の仕事はかつていろんな家を訪問して直接販売していましたが、今ではネット販売やSNSで周知する時代に変わっています。

 昔と同じようなスタイルを貫いても、いつか破綻してしまうでしょう。

 さらに今後は、仕事がAIに代わりつつあります。

 決まったやり方がない仕事であれば、幅広い考え方や創造力を発揮して、柔軟に行動したほうがうまくいきます。

 最後、努力が報われやすい条件3つ目は「他人ではなく過去の自分と比べる」です。

 さきほど、同じ資格の取得でも人によって勉強量が異なるという話をしました。

 たしかに世の中には、数か月の勉強だけで資格を取得できる人はいます。

 たった半年で英語をペラペラに喋れるような人もいるでしょう。

 「それに比べて自分なんて…」

 と考えると、努力することって意味がないように思う人もいるかもしれません。

 ですが、他人ではなく過去の自分と比べるのであれば「努力」は意味はあります。

 組織やグループでみると努力に差はでてきますが、個人のパフォーマンスだけに焦点をあてると練習量と相関することがわかっています。

 つまり、「自分の能力やスキルは努力で伸ばし続けることは可能」ということです。

 人によって顔や性格が違うように能力にも差が出るのは仕方がありませんが、自分の能力をアップさせることを目標にすれば努力は効果があります。

 これまであなたが他人と比べていたのであれば、これからの努力は「過去の自分を超えるため」にすると効果的ですね。

 「努力はいったいどこまで報われるのか?」についてのまとめです。

  • 「1万時間の法則」とは、一流の人は膨大な時間を徹底した練習に使っているという説のこと。
  • しかし実際には、一流になれるかどうかは練習量では決まらず、人によってバラバラであることが明らかになっている。
  • 練習の重要性が占める割合は12%程度だが、条件をみたせば努力が報われやすくなる場合もある。

【努力が報われやすい条件】

  • 条件1:トレーニング方法が確立されている(特に初期の段階で専門スキルのある先輩から学ぶ過程があることが重要)
  • 条件2:ルールが決められている(スポーツ、チェス、数学など)
  • 条件3:他人ではなく過去の自分と比べる(個人だけでみれば努力とパフォーマンスは相関する)

 「1万時間の法則」は、「時間を投資すれば天才や一流になれる」という平凡な私たちから見れば夢のある説です。

 ですが、新たな研究結果からみると、パフォーマンスには練習量はあまり関係なかったことがわかりました。

 過去の記事でも練習時間よりも睡眠のほうが大事だよねという指摘があることを紹介したように、今後は練習以上に大切な要素が出てくるかもしれません。

 また、現代は「多様性の時代」といわれ、まずます何が正解なのか見えにくい時代です。

 なので、これからの努力の考え方としては、他人と比べず「過去の自分よりも成長するため」にするのがいいかもしれないですね。

 ランニングでも、となりで走っている人を様子を気にしながら走るとスピードが落ちます。

 一方で、自分のベストを尽くそうと前だけを見て走っている人は、余計なことに意識をもっていかれなくなる分速く進みます。

 例えば、プレゼン能力や文章力などといったスキルは、人によって身につける早さは違います。

 そこで

  • 「周りの人はあんなに説明が上手いのに、自分はどうしてこんなダメなんだ!」

 と、他人を気にしても時間を無駄にするだけなので意味はありません。

 ですが、

  • 「先月の自分よりはだいぶ説明スキルが上がったぞ!」

 と、過去の自分と比べるのであれば、今後もモチベーションを保ったまま努力を続けることができます。

 そのため努力は、自分という個人を軸に考えていくのがこれからの「多様性の時代」を生きるための賢い戦略かもしれません。

練習の重要度は12%しかパフォーマンスに影響しないんでしょ?残り88%の要因はなんなの?

どれがパフォーマンスに大きな影響をもたらすのかは、現段階ではまだ明らかになってないんですよね。

性格やIQ、モチベーションや運などいろいろ説はありますが、まだはっきりと立証された研究はないのが現状です。

おそらく私たちの能力を決める大きな要素はなく、小さな要因が無数に存在しているかもしれないですね。

【記事執筆】あすか

【X(旧Twitter)】:https://twitter.com/askalabo

【Instagram】:instagram.com/aska.labo

\この記事を友だちに教える/