
仕事で成功するためにはどのような人間関係を築けばいいですか?

受け取るよりも相手に多くを与えるギバーになることです。
ただし「自分を犠牲にしない」というのが条件です。

あなたならどちらを選択する?

『HUNTER×HUNTER』(ハンター×ハンター)という漫画のあるシーンには、ハンター試験の最後の関門でチームの5人がある究極の選択を迫られる場面があります。
それは、「5人で行けるが45時間かかる道」、もう1つは「3人しか行けないが3分でゴールできる道」の2つです。
出典元:冨樫義博『HUNTER×HUNTER』3 巻
時間に余裕があれば5人全員で行ける道を選びたいところですが、この時点での残り時間はあと1時間しかありません。
「5人で行ける道」を選ぶと、5人全員がほぼ間違いなく不合格になります。
だからといって3分で行ける道を選んだとしても、2人が犠牲にならないといけません。
結果的に彼らはどうなったのか。というのが次のシーンです。
出典元:冨樫義博『HUNTER×HUNTER』3 巻
なんと5人全員時間内に通過です…!
どうやってこの5人は、残りあと1時間という制限がある中で無事試験を通過できたのでしょうか。
結論からいうと、「5人で行ける道」から入って制限時間までに隣の壁を壊し、「3分で行ける道」の方へ出るというものです。これなら全員で試験を通過することができます。
出典元:冨樫義博『HUNTER×HUNTER』3 巻
この画期的なアイデアを考えたのが主人公のゴン君でした。このようにチーム全体の利益を考えて行動できる人を成功ギバーといいます。
出典元:冨樫義博『HUNTER×HUNTER』3 巻
成功する人はチーム全体の利益を考える

仕事で成功するためには、周りの人間とどのようにコミュニケーションを取るか、人間関係とどのように付き合っていくかが大きく人生を左右します。
組織心理学者アダム・グラントによると、人間には大きく3つのタイプに分かれるといいます。
それは「ギバー(与える人)」「テイカー(奪う人)」「マッチャー(公平な人)」です。
簡単にいうと、次のような感じになります。
【ギバー】常に受け取るよりも多くを相手に与えようとする
【テイカー】常に与えるよりも多くを相手から奪おうとする
【マッチャー】損得のバランスを同じくらいにしようとする
彼らは階層に分けることができます。
一番下に位置するのがギバー、その上に位置するのがテイカー、テイカーの上に位置するのがマッチャーです。
これはギバーが惜しみなく人に与えるのでテイカーに利用され、一方テイカーは奪ったら奪われ返されてしまうマッチャーを相手にできないためです。
しかし面白いことに、マッチャーよりも上に位置するタイプがいることが分かっています。
これも実はギバーだったのです!

タイプをピラミッドの階層に分けたときに、トップと一番下がギバーで、テイカーとマッチャーは間に位置します。
このときトップにいるギバーを成功ギバー、一番下にいるギバーを失敗ギバーといいます。
面白いことにこのパターンはどの業種にも共通して起こる現象であり、必ずこれらの位置で固定されます。
つまりギバーになると、仕事で大成功するか、大失敗するか極端に分かれるということになります。
成功ギバーはどれだけ凄いのでしょうか。
成功ギバーはベルギーの医学部を対象にした実験だとマッチャーより11%成績が高いことがわかっています。営業だとマッチャーよりも平均25%成績が高いのです。
マッチャーやテイカーは自分の利益を最大化するために与えるのに対して、成功ギバーは目的が違います。
成功ギバーは組織の利益が最大化するために与えます。ここには自分の利益も入っています。

失敗ギバーは自分の利益は入っていない。そこが大きな違いです。そのため自己犠牲ではなく価値を見出すギバーになることが大切です。
もしゴン君が自己犠牲的なギバーだったら「自分は遠慮するから他の人が行って」と自分を犠牲にして自分以外に譲ったと思います。
これは会社で例えると、自分の成果を他の人にタダであげるようなもので、これだといずれ同僚や上司の都合のいいように使われてしまう結果になります。
もちろん組織に優しくするのも大事なんですが、その組織の中にはあなたも入っています。
今後あなたが成功して幸せになるためには、自分も大切できるギバーになることが大事です。
そこで今回は、人生の成功に欠かせないギバーのなり方について解説していきたいと思います。
ギバー、テイカー、マッチャーの特徴

ギバー、テイカー、マッチャーにはそれぞれ特有の特徴があります。
まとめると次のような感じなります。
あてはまる特徴が多いものがあなたのタイプです。
同僚や上司がどのタイプなのか判断するのにも使えるので、人間関係の分析にも使ってみてください。
【ギバーの特徴】

・組織全体の利益を考える。
・いつも人の役に立ちたいと考え、困っている人に手を貸す。
・好きな価値は「援助」「責任」「社会主義」
・他人に利用されやすい。
・人から受け取ることより、人が何を必要としているかを気遣う。
・成功するための一番の方法は、他の人の成功を助けることだと考えている。
・価値は交換するのではなく、増やすものと考えている。
・多くの人々が協力しスキルを活かすことで、大きな利益を得ようとする。
・うまくいっているときはほかの人を褒め、うまくいかないときは自分が責任を負う。
・どの人にも才能があると考えており、能力よりもやる気があるかどうかを重視する。
・チームを守ることを第一に考えるため、進んで失敗を認め、柔軟に意思決定しようとする。
・他人からの批判を受け入れ、アドバイスに従う。
・長い目で見て良いとした決断なら、自分の評判が悪くなっても構わないと考える。
【テイカーの特徴】

・用心深い。
・自慢話が多い。
・主語が「私・俺」を使うことが多い。
・世の中は競争社会であり、成功するには競争を勝ち抜かないといけないと考えている。
・「他者に利益を渡す=自分の利益がなくなる」と考える。
・富、権力、快楽、勝利、成功の価値を好む。
・競争心が強く、周りの人よりも優れていたり、成功していたりすることにこだわる。
・自分を大きく見せるため、偉い人を中心に人間関係を広げる。
・自分がほかの人より優れていて、特別な存在だと考えている。
・人前で魅力的に振る舞うのが得意。
・周りの人のやる気やエネルギーを奪い、敵対的な環境をつくるときがある
・自分を守ることを第一に考えるため、自分の失敗を認めない。自分のミスを他人のせいにする。
・自分が相手にしたことに対して、与えた以上の見返りを期待する。
・自分の目標達成に役立つ人には優しく、接するメリットのない人には冷たくする。
・自分がやりたくないことについて、断ることに抵抗がない。
・ビジネススーツを好んで着る。
・SNSの写真が実際よりも良く見える自分の写真を使っている。
【マッチャーの特徴】

・お互いの利益が同じくらいの割合にしようとする。
・人から何か与えられると、そのお返しをしようとする。
・他人を助けることは好きだが、親切が報われないのなら意味がないと考えるため、自分を助けてくれそうな人にしか与えない。
・「あなたが○○をしてくれたから、私は○○するね」という発言をよくする。
・自分が助けられたとき、その人にお返しをするような行動をとる。
・ギバーと接するとギバーと同じように振る舞う。
・テイカーと接するとテイカーと同じように振る舞う。
・人に親切にしてもらうためにネットワークを広げる。
・ギバーの成功を応援する傾向がある。
・他の人を助けるときは、同じレベルの見返りを期待する。
・見返りがあると確信するまで、時間や努力を費やすことをためらう。
・人を助けることは、社会的ルールの一部であると考えている。
・見込みがない部下を助けようとしないが、才能や将来性のある人と判断した部下には手を差し出ようとする。
ギバーのメリット
あなたがギバーになると次のようなメリットがあります。
①大きな成果を出しても周りからの嫉妬や陰口を言われず、グループに貢献するので感謝される。
②大胆で挑戦的なアイデアを出しても、まわりに認められやすい。
③いろんな人と繋がりやすくなり、新しい仕事がきやすくなる。
どれもチート級並みに素晴らしいメリットですね。順に解説していきます。
①周りからの嫉妬や陰口を言われない

1つ目のメリットは、成果を出しても周りから感謝してもらえることです。
残念ながら私たち人間は、他人の成功を喜ぶ人より喜べない人たちの割合のほうが多いです。
特に同調圧力が強く、自分は自分、他人は他人ができない嫉妬社会の日本では、大きな成功を目指すのはかなり疲れるかもしれません。
「出る杭は打たれる」ということわざがありますが、優秀な人ほどいろんな人に足を引っ張られてモチベーションが下がった経験のあるは多いでしょう。
しかし、ギバーは違います。周りから足を引っ張られたり、攻撃されたりすることはほとんどありません。
理由は、ギバーが自分のためだけではなく、組織やチームのために貢献しているからです。
純粋に会社を良くしていくため、社会を良くしていくために行動している人は、周りから妬まれにくく、尊敬されやすいというのは大きなメリットの一つですね。
②大胆なアイデアも認められやすい

2つ目のメリットは、革新的なアイデアを出しても周りから認められやすいということです。
これは相手にとって都合の悪いアイデアであっても受け入れてもらえる傾向にあります。
例えば、これまで紙で書類を管理していたのを、思い切って全部データで管理しようというアイデアを会社内で出したとします。
データで管理できるようにすれば、書類の保管場所が必要ないため場所代がかからないといったコストや、すぐに検索して必要な書類が手に入るなどの時間的なコスト削減にもつながります。
ただ、これまで紙で扱うことに慣れている人たちからすると、新しくパソコンの処理の仕方を勉強して覚えるよりは、前回と同じやり方で仕事を続けたほうが楽だと考えるので、反対する人が出てきます。
しかしアイデアを提案したのがギバーだと、たとえそれが自分にとって都合の悪いものであったとしても、耳を傾けてもらえるようになります。
これもギバーはグループのために貢献しようとしていることを周りが理解しているためです。
つまりギバーは周りから信用されやすいので、自分の意見をきいてもらえやすいということですね。
③新しい仕事がきやすい

広くいろんな人に与えようとするギバーになると、自分が会った人をよく覚えるようになります。
顔はもちろん、どこで会ったのかとか、話した会話とかも明確に覚えられるようになります。
そのためギバーの人間関係の幅は広く、イベントとかであいさつした程度の繋がりも大事にします。
実は新しい仕事というのは、強いつながりよりも弱い繋がりのほうから多くきます。
強いつながりは同じ分野や業界の人が多く、そもそも同業者なら知っているだろうからという理由で新しい仕事はなかなかきません。
ただ弱い繋がりがあると、まったく違う分野の業界から依頼がきたりします。そこから大きな仕事や人生の成功に繋がる可能性が高くなります。
成功ギバーになる方法

ここまでギバーになることが大事だと伝えてきましたが、1つ注意点があります。
それは、あなたの「周りがテイカーばかりだとエネルギーを吸われ続けて燃え尽きたり、間違った与え方をしてしまうと失敗する」ということです。
受け取るよりも多くを与えようとするギバーは、仕事で大きく成功するか、大きく失敗するか極端に分かれます。
そこで、人間関係を築いていくなかで、あなたが自分の身を守りながら、成功ギバーとして活躍できる方法を紹介します。
①自己犠牲しない

よく「良い人は損をする」と言われます。
理由は「自分を犠牲にし、他人に時間やエネルギーを使って助けようとするから」です。
これは失敗ギバーの大きな特徴の一つで、彼らは周りの要望にこたえることに時間をかけすぎてしまって、最後には燃え尽き症候群になりがちです。
成功するギバーは、自分を犠牲にして行動したりはしません。なぜなら「組織のために行動する」という「組織」のなかには「自分」も入っているからです。
このようなチーム全体が得する方法を考えるギバーを「他者志向」といいます。
チームのメンバーに自分の得を無視して行動するのは「自己犠牲」、逆に自分の得だけを考えるテイカーは「自己中心」、自分も他人の利益の関心が薄い人は「無気力」に分類されます。

あなたが自分のことは放っておいて他人を助けてばかりの自己犠牲的だと、必ずいつか燃え尽きます。与える側に立つときは、自分を犠牲にしていないかどうかは必ず確認してみるといいですね。
図のような他者志向的に行動すれば、あなたも成功ギバーに大きく近づけます。
②テイカーには3回に2回マッチャーになる

ギバーの最大の弱点といってもいいかもしれないですが、ギバーは受け取るよりも多くを相手に与えようとするために、テイカーに利用される面を持っています。
私たちは子供の時の道徳の授業で「みんなにやさしくしましょう」と習いましたが、仕事の世界では違います。
優しくした相手がテイカーだと、彼らに利用されて燃え尽きてしまいます。そのため、普段はギバーであっても、テイカーを相手にするときはマッチャーになる必要があります。
善人には優しく、悪い人には冷たくしてもいい。これは人間関係のコツのひとつです。
ただ成功ギバーは相手がテイカーであっても簡単に見捨てたりはしません。3回に2回は「目には目を」の対応をしたとしても、3回に1回はテイカーにチャンスを与えるのです。

テイカーからすると、「相手はギバーだからいつでも人を信用するだろうと思っていたのが、実はそうではなかった。それならそのチャンスの時は裏切らずに信頼関係を築いたほうが自分の得だ」と考えて協力するようになります。
成功するギバーはテイカーが裏切らない限りは信頼関係を築くことができます。
つまり、相手がテイカーであっても協力関係を維持できるのです。

ちなみに囚人のジレンマで一番強いのは「最初は信用し、相手が裏切ったら自分も裏切る人」だといいます。
成功ギバーにも同じようなことがいえるんですね。
③相手にしてもらったことを先に考える

カップルの関係について研究しているあるカナダの心理学者は、パートナーのいる人に以下の質問をしました。
Q あなたは自分のパートナーに対して、全体の100%のうち何%尽くしていると思いますか?
お互いの数字が正しければ、2人の数字を足すと100%になるはずです。

ですがカップルの4組に3組が100%を超えるといいます。つまり、人は自分の貢献度合を過大評価する傾向にあるということです。
あなたが「自分は周りの人よりも多くを与えている」と思った場合は、あなたにバイアスがかかっている可能性があります。
そのためその思い込みから抜けだすために、「他人がした貢献に注目する」作業が必要になります。すると、自分の貢献度を正しく判断することができるようになります。
思い込みをなくす方法はかんたんで、自分がどれだけ相手に貢献しているか考える前に、「自分はその相手にどれくらい助けられているか」と考えることです。それだけでも効果が出ます。
実際、従業員が、上司にどれくらい貢献しているかを考える前に、上司からどのくらい助けられているのかを考えた研究では、上司の貢献に対する評価は17%以下から33%以上に倍増することがわかっています。
まとめ:与える人は成功する

人間関係と仕事の成功についていろいろ研究を調べてみると、必ずしも「良い人は損する」とは限らないんですね。
自分を犠牲にせず、テイカーとの付き合い方を知っていれば、仕事で成功する可能性を大きく上げることができるのはとても嬉しい結果ですね。
『HUNTER×HUNTER』(ハンター×ハンター)の主人公ゴン君は、周りにテイカーがいても協力関係を築いて、チーム全員でのクリアを達成しています。
これは漫画の世界だけに限らず、現実世界でも実現可能です。
周りに与えるだけではなく、自分も大切にできる成功ギバー。
自分を犠牲にせず、組織のために貢献していれば、あなたもいつか大きな成功を達成することができるかもしれません。
人間関係に関するよくある質問


見返りを求めないギバーって効果が出ないと思うんだけど、それでも与えるのはどうして?

ギバーは視点が長期的だからです。効果が出るまでに時間はかかりますが、これができるのがギバーだけです。
行動に対して見返りを求めている時点でマッチャーかテイカーなので、成功ギバーを目指すのであればそもそもその考え方を根本的に変える必要があります。

上司がテイカーの場合はどう対応すればいい?

一番いいのは職場を変えることです。そもそも仕事は自分で選ぶものなので、環境は変えることができます。
終身雇用や年功序列が崩壊したこれからの時代は、転職して自分の環境を良くしていくことが大事ですね。
【参考文献・データ等】
・冨樫 義博『HUNTER X HUNTER 3』集英社
・Adam Grant “In the Company of Givers and Takers” Organizational Culture.
・アダム・グラント『GIVE & TAKE「与える人」こそ成功する時代』三笠書房