研究者に学ぶロジカル・シンキングの鍛え方 | 科学的思考法をマスターする
イェール大学教授アン・ウーキョンが『思考の穴』という本のなかで、
- 合理的な考え方が身につく科学的思考
を3つまとめていたので、今回はそれを紹介したいなと思います。
というのも、僕らは論理的に考えているようで、けっこう間違った判断をしてしまいがちなんですよね。
そこでオススメなのが、データを正しく読むために使われるロジカル・シンキングです。
これができると
- 相手の話の矛盾、ウソに気付ける
- フェイクニュースに騙されなくなる
- 先入観にとらわれずに判断できる
などのメリットがあります。
実際に研究者が使っている思考法なので、慣れないうちは少し難しいかもしれません。
ですが、これから紹介する3つの科学的思考法ができるようになると、確実にあなたの合理性は高まります。
そこで今回は、ロジカルな考え方を鍛える3つの科学的思考法を紹介します。
ロジカル・シンキングの鍛え方
合理的に考えるための方法には、大きく次の3つの科学的思考法があります。
【ロジカル・シンキングの鍛え方】
- 方法①「大数の法則」を使う
- 方法②「平均への回帰」を使う
- 方法③「ベイズの定理」を使う
簡単な順に並べているので、まずは1つ目の思考法からスタートするのがオススメです。
では、比較的理解しやすい「大数の法則」と呼ばれる思考法から見ていきましょう。
方法①「大数の法則」を使う
ロジカル・シンキングを鍛える方法1つ目は「大数の法則」を使うです。
大数の法則はシンプルで、
- 「データは多ければ多いほどいい」
という考え方をいいます。
これを意識するだけで、客観的に物事を判断できるようになります。(R)
根拠の数が多ければいいときいて、「それって普通なんじゃないの?」と思った方もいるかもしれません。
ですが僕らは、データを集めれば分かる事実も、1つの体験やストーリーがあると無意識にそれに強く引っ張られてしまいます。
例えば、
- 何千年にもわたって、二酸化炭素濃度、平均気温が上がっている統計データが大量にあっても、たった1回の吹雪を経験して「地球温暖化なんて噓だよね」と思う。
- スタートアップ企業の失敗率は約8割とされるが、「3人の若者がマットレスのレンタルから初めてエアビーアンドビーを創業し、時価総額310億ドルになった」というストーリー1つで、「自分も起業すればお金持ちになれるのでは?」と想像する。
- 講義に参加した学生100人以上のアンケートに基づく平均的な評価は「良」であったデータよりも、ある1人の大学生が「学んでよかったなと思う分もあったので、評価は良です」とコメントした方が講義を受けたいと思う人が増える(R)
などです。
講義の例でいえば、100人以上の学生の回答もちゃんと実体験に基づく評価です。
同じ内容についてなら、1人よりも100の実体験を知る方が信ぴょう性が高いのは間違いありません。
ですが僕らは、100人以上の回答よりも、たった1人のストーリーで講義を受けるかどうかを判断してしまうのです。
これは全体的な平均の評価が良かったとしても、参考にした1人のストーリーが
- 「あの先生の講義最悪だったよ!」
といったようなネガティブなものであれば、講義への評価を誤って判断することになります。
これは人間関係にも当てはまります。
たとえば、あなたが誰かと初めて会ってその人を評価するとします。
その時、1度しか会わなかったときよりも、5回、10回と会って評価した方が自信をもって判断できるのではないでしょうか。
デートして結婚相手を決めるにしても、面接して採用するにしても、1回だけで判断すると間違えるリスクが高くなります。
そこで、物事を客観的に判断するために
- 自分は誰かが話したストーリーに無意識に影響されていないか?
- この問題について他にも資料はないだろうか?
- YouTubeやX(旧Twitter)などのSNSで、個人の感想を全体の評価としていないか?
などと考える癖をつけておくとベストです。
- 「データは多ければ多いほどいい」
というシンプルだけど忘れがちな大数の法則について、ぜひ意識するようにしてみてください。
方法②「平均への回帰」を使う
ロジカル・シンキングを鍛える方法2つ目は「平均への回帰」を使うです。
平均への回帰とは簡単にいうと、
- 平均に近づくために結果は上がったり下がったりすること
をいいます。
よくその年に大活躍したスポーツ選手が次の年からスランプに陥るみたいな話がありますが、あれは選手のせいではありません。
平均に近づくために上がった後は下がっただけとされています。
有名になったアスリートが負けたのは、実際にはこの平均への回帰が理由なのですが、練習をサボったからだと思い込んでしまうと誤った評価をしてしまいます。
他にも例をあげると
- 前回のテストで生徒の点数が低かったが、次のテストで点数が上がると、教師が「自分の教え方が良くなったからだ」と思う。
- 面接したときはとても優秀に見えたのに、雇ってみるとそれほどでもなかった。(逆に面接の時は落ち着きがなかったので不採用にしたが、実はめちゃくちゃ能力の高い優秀な人だと後でわかった。)
などがそうです。
また、パフォーマンスの要素には、自分の能力とは関係なくいろんなランダムな要素があります。
先ほどの面接の例でいえば、
- 着ている服の色が面接官の好みの色だった。
- 順番が一番最後で面接官が疲れていた。
- オーディション当日の課題曲が自分の得意な曲だった。
などが挙げられます。
これらの要素は、自分の力ではコントロールできないものばかりです。
自分にとって有利になったり不利になったりランダム要素が多いので、面接のように1回で判断しちゃうのは、科学的な思考法でみると間違いなんですよね。
物事を正しく読むためには、前後のできごとや一部の情報だけで判断するのではなく、
- 総合的にみたら高いのか低いのか?
- パフォーマンスが落ちたのではなく、ただ平均に近づいただけなのでは?
- スランプは自分の思い込みだろうか?
などと考えてみると、間違った思い込みをなくすことができます。
方法③「ベイズの定理」を使う
最後、ロジカル・シンキングを鍛える方法3つ目は「ベイズの定理」を使うです。
ベイズの定理って定義がとても複雑なのでざっくりいうと、
- AがBなら、BがAである確率はどれくらいか?
という感じです。
例をあげると、
- ネコが動物なら、動物であればネコなのか?
みたいになります。
ネコが動物なのは100%間違いないのですが、動物であればすべてネコかというとそうではありません。
イヌかもしれないし、コアラかもしれない。
これは冷静に考えればわかるのでは?と思うかもしれません。
ですが僕らは、この「AがBになる」のと「BがAになる」のが同じだと誤解してしまう傾向にあります。
たとえば、
- ある公務員が不祥事を起こしたら、「公務員は全員ダメだ!」と思う。
- ある女優が出てた3本の映画はどれも面白かったから、「この女優が出る4本目の映画も面白い!」と思う。
- PCR検査で陽性がでると、「陽性は全てコロナだ!」と思う。
などがそうです。
これらは全て、「AがBになったから、BはAだ!」と誤解した例です。
偏見といってもいいですね。
その女優が出演していた映画が全て面白かったからといって、今後新しく放映される出演の映画も面白いとは限りません。
次の放映は共演していた人のほとんどが棒読みで、映画なのに展開もオチもなく終わる可能性もあるわけです。
ほかにも、
- 今の段階ではこの答えが正しいとされているけど、今後新しい情報が出たらまた常識が変わるかもしれない。
- この仕事のやり方ではいまのところ上手くいってるけど、時代が変わったらやり方を変えないといけないかもしれない。
といった感じで、ベイズの定理を使って考えていくと大きな間違いはなくなります。
ロジカル・シンキングはデータを正しく読むだけではなく、仕事や人間関係にも幅広く使えるので、ぜひスキルとして身につけておきたいですね。
ロジカル・シンキングの鍛え方:まとめ
「ロジカル・シンキングの鍛え方」のまとめです。
【ロジカル・シンキングの鍛え方】
あまり慣れ親しんだ考え方ではないので、最初はかなり難しかったかもしれません。
ですが、この3つの思考法ができるようになると、物事を論理的に考えることができ、判断力を上げることができます。
ぜひ何か判断するシーンがでてきたら、この3つの科学的思考法を使ってみてください。
あなたの合理性は、間違いなく上がっていくはずです。
思考法については、アン・ウーキョン『思考の穴』がお勧めです。
僕らが陥りやすい思い込みなどについて詳しくかかれています。
ロジカル・シンキングを身につけるのに非常に参考になる一冊になるので、さらに鍛えたい方はぜひ読んでみてください。
【参考文献・データ等】
- アン・ウーキョン『イェール大学集中講義 思考の穴 わかっていても間違える全人類のための思考法』
- Geoffrey T Fong, David H Krantz, Richard E Nisbett(1986)The effects of statistical training on thinking about everyday problems. Cognitive Psychology Volume 18, Issue 3, July 1986, Pages 253-292
- Borgida, Eugene Nisbett, Richard E.(1977)The differential impact of abstract vs. concrete information on decisions. Journal of Applied Social Psychology, 7(3), 258–271
【記事執筆】あすか
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